第3話 おまわりさんこいつです!

 102号室に戻って来た藍大がまず行うべきは電話だった。


「サクラ、俺が良いって言うまで静かにしててくれ」


「キュ」


 サクラが頷くと、藍大は架けるべき相手に電話を架けた。


 プルルルルル・・・。


『もしもし、なんだよ藍大? 今絶賛仕事中なんだが』


「その仕事に関する電話だぜ、しげる


『仕事ぉ? まさかお前、ダンジョンでも見つけたんか?』


「そのまさかだ」


 藍大が電話した相手は、芹江茂。


 大地震があった日、藍大と一緒に海外旅行に行った友達の1人であり、鑑定士の職業技能ジョブスキルに目覚めてDMUに雇われることになったエリートだ。


 鑑定士は戦闘には向いていないが、ダンジョンから持ち帰った物の価値を正確に見極められる。


 未知の資源の価値を見極められる目は重要だから、早い話が国に囲われているのだ。


『マジか。DMUの隊員を派遣する。どこだ?』


「シャングリラ」


『は?』


「シャングリラだ。正確には物置になってた101号室がダンジョンになった」


『嘘だろ?』


 ダンジョンは現時点では、洞窟や廃墟等の所有者のいない所に現れる傾向があった。


 それが今回初めて覆されたので、茂は嘘ではないかと思わず訊いてしまった。


「俺は冗談を言っても嘘は言わねえ」


『だよな。言ってみただけだ。こりゃ新発見だな。お手柄だぜおい』


「それともう1つ報告事項がある」


『なんだよ? シャングリラにダンジョンが現れた以上の出来事じゃねえと、俺は驚かねえぜ?』


 既に衝撃の事実を耳にしているため、これ以上驚くべきことはないだろうと思っての茂の発言だが、その発言はフラグでしかない。


「聞いて驚け。俺、シャングリラのダンジョンに入って従魔士の職業技能ジョブスキルに目覚めた」


『おいおいおい、やっと覚醒お目覚めかよ藍大! ようこそこちら側へ!』


「ありがとな。ついでに言うと、もう既に1体モンスターをテイムした」


『なん・・・だと・・・』


 モンスターのテイムは、ダンジョンに入れる超人達にとって未達の領域だった。


 あれこれと試してみたものの、上手くいった試しはなかった。


 それが超人として覚醒しても職業技能ジョブスキルのわからなかった藍大によって成し遂げられたとすれば、とびっきりの情報である。


「茂、この通話をビデオ通話に切り替えて良いか? 実は今、俺の隣にテイムしたモンスターがいるんだ」


『マジか! 切り替えてくれ!』


「わかった」


 藍大は耳に当てていたスマホをスピーカー設定にして、スタンドに立てかけて自分とサクラが映るようにしてからビデオ通話に切り替えた。


 だがちょっと待ってほしい。


 藍大は忘れていた。


 サクラの容姿が人間の小さな女の子に似ているということを。


『おまわりさんこいつです!』


「濡れ衣だ! 茂、お前の職業技能ジョブスキルでわかるだろ!?」


『・・・幼女じゃなくてバンシーかよ』


「誤解が解けたなら言うことがあるよな?」


 茂が鑑定士の力でサクラをバンシーだと見抜くと、藍大は額に青筋を浮かべながらわかってるよなと言わんばかりに訊く。


『悪い。てっきり藍大が虚言癖の性犯罪者になっちまったかと思ったぜ』


「覚えてろよ。回らない寿司奢らせてやる」


『わかったわかった。奢るから勘弁してくれ。それはそれとして、DMUの隊員を派遣すんのは止めて俺が行くわ』


「なんでだ?」


 言質が取れたので怒りを抑えた藍大は、DMUの隊員ではなく茂が来る理由が気になった。


 自分の手に負えない状況だから茂に連絡をした訳だが、茂が忙しいことも承知している。


 それゆえ、茂が直接来るというとは思っていなかったのだ。


『いきなり頭の固い人が行くと、シャングリラからお前と住民を立ち退かせようとするかもしれねえ。だったら、俺が事実を見極めて上に報告した方が良い』


「納得した。すげー納得した。頼むわ。俺も店子さん達も締め出されたら困る」


『だろ? んじゃ、1時間ぐらいでそっち行くからおとなしくしててくれ』


「あいよ。待ってるぜ」


『おう』


 茂との電話が終わり、102号室に静寂が戻った。


 電話をしている間ずっとおとなしくしていたサクラの頭を撫でると、藍大はサクラに声をかけた。


「サクラ、もう大丈夫だぞ」


「キュ~」


 やっと喋って良いのかと安心したサクラは気の抜けた声を出した。


 なんとなくサクラを見て和んだため、藍大はスマホでその姿の写真を撮った。


「キュッ!?」


 カメラのフラッシュに驚き、サクラが立ち上がってソワソワしたが何も起こらない。


「あっ、ごめん。これはサクラの写真を撮ったんだ。ほら」


 藍大がサクラの気の緩んだ姿の写真を見せると、サクラが立ち上がって頬を膨らませた。


「キュキュ!」


「撮るならもっと良い感じに撮れって?」


「キュ!」


 サクラはそうだと言わんばかりに腕を組んで頷いた。


「しょうがないな。サクラ、好きなポーズをしてみろよ」


「キュッキュ~」


 任せなさいと機嫌を直したサクラは、藍大の布団を見つけてそこにダイブしてポーズを決めた。


「何故に抱き枕風? まあ撮るけど」


 サクラがそれで良いならばと藍大は写真を撮った。


 そして、サクラにそれを見せた。


「どうだ?」


「キュ」


 サムズアップである。


 何がOKなのかわからないが、藍大はサクラが良いならばそれで良いかと深く考えるのを止めた。


 幼女の抱き枕の写真に考察する成人男性の図は、茂ではないがお巡りさんこいつです案件だと思ってのことである。


 写真撮影を終えたら、藍大は改めてモンスター図鑑を開いてサクラのステータスを確認することにした。


 テイムに成功した従魔ならば、モンスター図鑑にリアルな情報が登録されているので詳しく何かを調べたいならば図鑑を見た方が良い。


 先程はダンジョンという危険が迫る中での確認だったので、落ち着いた場所でもう一度確認したいと思ったのだ。



-----------------------------------------

名前:サクラ 種族:バンシー

性別:雌 Lv:1

-----------------------------------------

HP:40/40

MP:200/200

STR:20

VIT:20

DEX:40

AGI:30

INT:40

LUK:20

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

アビリティ:<不幸招来バッドラック

装備:なし

備考:ご機嫌

-----------------------------------------



 (<不幸招来バッドラック>かぁ。さっきは詳しく確認できなかったもんな)


 全ての能力値が2倍になっていることは先程確認したので、藍大が調べたのはアビリティの<不幸招来>である。


 このアビリティ如何によっては、藍大も冒険者として活動できるかもしれないのだから気にしないはずがない。


 ちなみに、アビリティとはモンスター版の職業技能ジョブスキルのようなものだ。


 超人は職業技能ジョブスキルを会得する代わりにアビリティを会得できない。


 さて、サクラのアビリティが戦闘に使えるかどうかだが、<不幸招来バッドラック>とは指向性のある叫び声を敵に聞かせ、その鳴き声で敵のLUKを自身のINTの数値分だけ減少させるものだ。


 減少させた際、LUKが0に近づけば近づく程不慮の事故でダメージを負いやすくなる。


 敵の運任せであり、自力で敵を倒せるようなアビリティではなかった。


 いや、運も実力の内だと言うのならば、<不幸招来バッドラック>も立派な戦力と言えよう。


 そこまで確認すると、藍大はサクラの頭を撫でた。


「まあ、なんだ。俺が従魔士でモンスター任せなんだから、とやかく言うのはおかしいわな」


「キュ?」


「現実に目を背けるよりも、その現実を冷静に把握して有効に活かす手段を考えた方が良いってことだ」


「キュ!」


 よくわからないけど、藍大が良いならそれで良いよねとサクラは頷いた。


 そうこうしている内に1時間が経過し、102号室のインターホンが鳴った。


 ピンポーン。


「藍大、俺だ。ジャスト1時間で着いたぜ」


「あいよ。今開けるわ」


 玄関のドアの向こうから茂の声が聞こえたので、藍大は玄関まで移動してドアを開けた。


 ドアを開けると、DMUの制服を着た三白眼の長身の男の姿があった。


「よっ。マジでバンシーをテイムしたのな」


「キュ・・・」


 藍大の後ろについて来たサクラは、茂の見た目に怯えたのか藍大の脚にしがみついていた。


「茂、サクラがビビってる。怖い顔すんな」


「これが地顔だっての。なんにせよ元気そうだな、藍大」


「おう」


 藍大と茂は拳をコツンとぶつけて挨拶を交わした。

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