第2話 この幼女モンスターかよ!?
倒れていたのは傷だらけの幼女だった。
身に付けている黒いゴスロリは汚れており、薄ピンクの背中まで伸びた髪にも土が付着している。
「おい、しっかりしろ!」
藍大はその幼女に駆け寄ると、息をしているか自分の耳を近づけて確かめた。
呼吸はしていることから死んではいないとわかると、倒れている幼女を安全な場所に運ぼうとした。
その時、モンスター図鑑が藍大の手の中で光りながら開き、そこにデータが浮かび上がった。
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名前:なし 種族:バンシー
性別:雌 Lv:1
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HP:3/20
MP:20/100
STR:10
VIT:10
DEX:20
AGI:15
INT:20
LUK:10
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称号:なし
アビリティ:<
装備:なし
備考:衰弱
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「この幼女モンスターかよ!?」
従魔士には、モンスターのステータスを確認する力も含まれていた。
それゆえ、この幼女が人間ではなくバンシーという種族のモンスターであることがわかったのだ。
HPはHit Point(ヒットポイント)で体力を意味し、睡眠と食事で回復する。
MPはMagic Point(マジックポイント)で魔力を意味し、睡眠、食事、時間経過で回復する。
STRはStrength(ストレングス)で力を意味し、攻撃力と置き換えられる。
VITはVitality(バイタリティ)で生命力を意味し、防御力と置き換えられる。
DEXはDexterity(デクステリティ)で器用さを意味する。
AGIはAgility(アジリティ)で敏捷性を意味し、素早さと置き換えられる。
INTはIntelligence(インテリジェンス)で知力を意味する。
LUKはLuck(ラック)で運を意味する。
そういった知識は、藍大がバンシーのデータを確認することでわかるようになった。
ちなみに、今までに明かされた情報では人間にレベルなんて強さを推し量る概念は存在しない。
少なくとも、藍大のモンスター図鑑ではそれを確かめる手段がないのだ。
「バンシーを急いで回復させるには、俺がテイムして亜空間に移動させた方が良いのか。でも、見た目幼女をテイムってどうなんだ?」
バンシーをテイムすることは従魔士として別におかしくない。
だが、バンシーの見た目が幼女なのが問題である。
もしもこの先、藍大が従魔士としてダンジョンに挑むとして、他の超人にその姿を見られたとしよう。
そうするとどうなるか。
幼女に戦わせる鬼畜の図の完成である。
勘違いされたままそれが噂になれば、藍大は表を歩くことができなくなる。
「どうする? 鬼畜と呼ばれるリスクがあっても助けるか、バンシーを見捨てるか・・・」
藍大はまたとないモンスターをテイムするチャンスを前にして、究極の選択に唸った。
悩んだ結果、藍大はバンシーをテイムすることに決めた。
怪我をしたバンシーを見捨てられない気持ちが半分、このチャンスを逃したくない気持ちが半分というところだ。
藍大はモンスター図鑑の開かれたページを倒れているバンシーの頭の上に被せた。
その瞬間、バンシーの体がモンスター図鑑の中に吸い込まれていった。
「うわっ、マジで吸い込まれたよ」
知識としては理解できても、それが実際に目の前で起こるのを受け入れるのは別だ。
しかし、そんな藍大の耳に知らない声が届いた。
『バンシーのテイムに成功しました』
『バンシーに名前をつけて下さい』
「え? 今の声は何?」
少し待ってみたものの、藍大の問いに誰も答えることはない。
黒い本を手にした時のように、藍大の頭に説明が浮かび上がることはなかった。
これ以上待っていても仕方ないので、藍大は自分の耳に届いた声をゲームのシステムメッセージと同一だと判断した。
わからない時はスパッと諦めて適当にそれらしいものを当て嵌めた訳だ。
システムメッセージのことは脇に置いといて、藍大はバンシーに名前をつけることにした。
じっくりと見た訳ではないから、薄ピンク色の長い髪、黒いゴスロリ、雌という特徴しか思い出せない。
「名前はサクラにする」
結局、髪の色から春に咲く桜を連想し、出会ったのも春ならちょうど良いと思ってそれを名前にした。
『バンシーの名前をサクラとして登録します』
『サクラは名付けられたことで強化されました』
『サクラのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』
『詳細はサクラのページで確認して下さい』
システムメッセージにより、藍大はモンスター図鑑にサクラが登録されたことを知って安心した。
早速、サクラのページを確認した。
すると、サクラの全ての能力値が2倍になっていた。
レベルは1のままにもかかわらず、能力値だけが上がったのだ。
使役して名付けるだけでパワーアップするなんて、藍大からすれば嬉しい誤算だろう。
しかも、サクラのレベルは低くてHPだって大して多くないので、今までの時間の経過でサクラのHPは全快した。
藍大は本当にサクラが回復したのか気になり、サクラを召喚してみることにした。
「【
モンスターの召喚には、モンスター図鑑で呼び出したいモンスターのページを開き、【
やたら長い呪文を詠唱しなくて良いことは、藍大をホッとさせた。
長い呪文の詠唱は、それをするだけで隙が生じてしまう。
自分の運動神経に自信がない藍大としては、隙がないことに越したことはないのだ。
それはさておき、藍大はサクラを召喚した。
藍大の目の前には、先ほどまでボロボロだった姿ではなく、身だしなみを整えて完全に回復したサクラの姿があった。
「キュ〜」
サクラは嬉しそうに鳴くと同時に、藍大の脚に抱きついた。
「人型でも喋れるわけではないのか。サクラ、元気になったんだな」
「キュ〜。キュキュキュ〜」
サクラは頷いてから藍大に頭を下げた。
「もしかして、助けたことのお礼を言ってる?」
「キュ〜」
「なるほど。サクラと意思疎通は取れそうだ」
その通りと言わんばかりに頷くサクラを見て、藍大は意思疎通が取れることに安心した。
自分の指示をサクラが理解してくれても、サクラが言いたいことを理解できなければ、モンスターとの戦闘に不安が残る。
サクラがメインで戦うことを考えれば、サクラが気づいたことを自分に教えてもらうこともあるはずなので、それがわからないのは困る。
その不安がないのはありがたいことだろう。
しかし、不安というものは1つ解消されても新しく思い浮かぶものだ。
「サクラって何食べるんだ?」
そう、サクラのご飯である。
厳密に言えば、サクラに限らずテイムしたモンスターの食事をどうすれば良いのかが不安として浮かび上がった。
藍大は一人暮らしなので生活していけるが、食い扶持が増えれば生活が成り立たなくなる。
モンスターが何をどれだけ食べるのかわからなければ、藍大はこの先ホイホイとモンスターをテイムできないだろう。
もっとも、サクラのようなチャンスがそう何度も続くはずがないのだが。
ところが、藍大の不安はサクラが図鑑を指差したことで払拭されることになる。
サクラのページを見てみると、何を食べるのかが記されていた。
「亜空間にいればエネルギー補給もできるのか。食事は娯楽だからしてもしなくても良いと」
「キュ〜」
サクラは正解だと頷いた。
モンスターは従魔士の懐に優しい存在だった。
勿論、食べることはできるから好きなものがあれば食べさせた方が良いともモンスター図鑑には記されていた。
「まあ、何を食べたいかはサクラ次第ってことだし、そこは気長に調べるよ」
「キュ〜」
それで大丈夫だとサクラは頷いた。
サクラについて今知りたいことは知ることができたので、藍大はダンジョンから脱出することにした。
サクラを追い込む程のモンスターがいるのに、無策にこのまま探索しようという気にはならなかったからだ。
藍大とサクラはダンジョンを脱出し、102号室へと帰還した。
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