異端狩りという権力
チアリは、そんなメルの様子を微笑ましく眺めながら続けた。
「わたしとメルは孤児院にいた時から力はあって、大人にバレないように隠していたんだけど」
孤児院では、程度に差はあるが、力を持った子はそう珍しくなかったそうだ。中には、力が原因で教会に見つかるのを恐れた両親に預けられた子もいたらしく、子供たちは協力して、大人たちに力が見つからないように守り合っていた。
メルのような力がバレていなかったのも、上の年齢の子達が下の子達の面倒を見るようにして、物心がつかない子供が無意識に力を使う場面を、大人に見せないように、遠ざけていたと言う徹底ぶりだった。
しかし、ある時、メルと特に仲の良かった子が養子として引き取られることになり、見送りの時、メルはみんなの前で思わず泣き出してしまった。その場には当然大人もいた。
「メルの力を知ったシスターは、メルをお金持ちの養子に出そうとしたの」
チアリの表情を見る限り、養子といえば聞こえがいいが、要は教会に報告もせず、自分たちで保護することもなく、金儲けの道具として金持ちに売ることにしたのだろう。
「で、あまりに急に決まるもんだし、見送りの時の新しいお父さん?そいつが胡散臭くてさ、俺ら3人が引き止めようとしたんだけど、もみ合いになって、チアリがついそいつを吹っ飛ばしちゃったんだよなぁ」
ラークが少し誇らしげな顔でバーンというジェスチャーをするが、チアリの表情は固いままメルを見つめている。うっかり突き飛ばしたわけでは無いことが伝わった。
シリンの膝でうずくまるレオも、硬い声で呟いた。
「あのおじさん、ニコニコしてたけどやな感じだった。吹っ飛んだあとはすごい怒ってて、絵本の魔物みたいだった。」
「それで怒ったお金持ちがみんなを通報しちゃったの?」
シリンの問いかけに、3人がコクリと頷く。
「で、裁判もされずに、4人まとめて異端扱いにされたってわけ。」
「私はともかく、ラークとレオも異端として処刑までされちゃうとは思わなかったわ。」
メルを守ろうとした子供たちが、こんな簡単に殺されるなんて、あいつらは人の命をなんだと思っているのだろうか。誰も助けようとしなかったのだろうか。
腐った大人が牛耳るあの国がつくづく嫌になった。
「みんな、話してくれてありがとう。」
この子たちが、少しでも幸せな生活を送れるように力になりたい。シリンは無意識に拳を握り閉めた。
でも、自分に何ができるんだろうな…とシリンが思っていると、猪の処理を完了させたラークが「今度は俺が聞きたいんだけどさ」と、前置きをして問いかけた。
「昨日、シリンは雷で神官を倒してたけど、何の能力を持ってんの?」
言葉に、シリンとチアリがギョッとする。
「えっ!あれお姉さんの能力なの!?だったら、能力隠して損した!」
「あれは能力っていうか…ら、ラッキーだよ」
「お姉さんすごーい!」
「おええっ・・」
シリンは、あの時のことは正直あまり覚えていないが、油断した神官を物理的に締め上げたら、怯えた神官の力が暴走したのか、コントロールできなくなっただけだと思っている。
だが、それはそれで、暴力的だから子供には言えない。
でも、少なくとも…と、シリンはチラリと自分の足を見やる。
あの時燃やされていた足が無傷だったということは、多少の何かはあるのかもしれない。
これからは、この子達と自分の力だけで生きていかないといけない。
そのためには、
「私たちは、自分のこと色々知らなきゃ」
その機会は少し後に、割と早くやってくることになる。
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