帰るところと空腹の限界

 その後、シリンたちは、村を二つ通り抜け、完全に国を出るまで走り続けた。


 その頃には、雷の音は聞こえなくなり、雨も止んでいた。


「ここまで来れば…大丈夫かな?」

「後ろ誰もいないよ!」

 抱きかかえたプラチナブロンドの男の子が、シリンの肩越しに背後を確認した。


 ほっと息をつき、スピードをゆるめながら、肩の男の子に問いかけた。

「降りて歩ける?」

「うん!」

 走りを止めて、男の子をゆっくりとおろす。


「私も降りるー!!」

「大丈夫か?足元気をつけろよ」

 同じタイミングで、黒髪の男の子も一番小さい女の子を下ろしていた。

 いくら小さな女の子とは言え、背負いながら走り続けるのは辛かっただろうに、よく弱音を吐かなかったと思う。


「そういえば、お姉さんの名前は?私の名前はチアリ」

 チアリと名乗る茶髪の女の子の問いかけに、シリンは少し考えてから答える。

「わたしはシリン…今の所はね」

「なんで?」

 隣の男の子がプラチナブロンドの頭を傾けて不思議そうにこちらを見る。


 シリンは質問には答えず、先にこどもたちへ質問をする。

「夢中で走ってきたけど、君たちは国を出て本当に良かったの?これ以上は、もう戻れないよ」

 これ以上、シリンと一緒に国を離れたら、もう、彼女たちの故郷の村や、家族の元には帰れないかも知れない。


 あの場にいた時点で、何か事情はあるだろうが、それでも、もしも帰れるところがあるなら…と子供達を見つめる。


 すると、チアリはシリンへ駆け寄り、隣の小さい男の子に聞こえないよう、囁くように話し出した。

「私たち、同じ孤児院なの。戻ったらシスターにも迷惑をかけちゃうし…神官達につれもどされると思う…」

 途中から声が細くなる女の子に被せるように、黒髪の男の子も詰め寄って懇願する。

「僕たち力になるから。だから一緒に連れて行って欲しい!」


 神官達が管理しているはずの孤児院にいる子達が、4人も同時に異端として処刑されるのはおかしい。きっとこの子達は、私よりももっとずっと、理不尽な目にあって、帰る場所を無くしてしまったのかもしれない。


 シリンは立ち止まり、二人の頭をそっと撫でた。


「大丈夫、置いていかないから。みんなで幸せに生きれる場所まで逃げちゃおう」

「ほんと?」

 今にも泣き出しそうな、細く震えた声に、喉の奥がツンとする。


「とりあえず、どこか見つからないで休めるところを探さないとね。」


 休むと言う言葉を出した途端、シリンは急に体が重くなった気がした。


「あれ・・」


 さっきよりもずいぶんとゆっくりと歩き出しながら、子供達に声をかけるが、最後まで言い切れない。

「さ、さあもう少しだけ歩こ…」

 疲れを実感したからか、急に目の前も暗くなって来た。

 ーーあれ目が見えない、言葉も聞こえない?


 言ったつもりの言葉は、耳には届かず、滲んだ視界はそのまま真っ暗になり、シリンはそのまま崩れ落ちた。


「お姉さん!?!?」

「大丈夫!?」

「お姉さん、多分、もうずっとご飯食べてないと思う」

「うわぁぁぁーん」


 かすかにみんなの声が聞こえる


 無我夢中だったから忘れてた。

 村で一番貧乏で、いつもお腹を空かせてた私は、昔から友達と遊ぶ体力すらない、倒れやすい病弱な子供だった。



 _______________________

【子供達の特徴まとめ】

 大①一番大きい女の子…茶髪...13歳くらい

 大②同じくらい大きい男の子…黒髪…13歳くらい

 中③小さい男の子…プラチナブロンド…6歳くらい

 小④一番小さい女の子…金髪…4歳

 ※名前が出るまでややこしいですが、今しばらくお付き合いください。

 ※名前が出るまではあとがきで特徴まとめておきます。

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