第6話
「ありがとうございます。助かりました」
そう言って一礼をすると老人は気さくに「おー、がんばってなー」と言って去っていった。場所は麓の山の登山口。まだ時間は昼前。ここからは徒歩で遺跡に向かう。老人によればここから3時間ほどで着くらしい。少しキツめの登山と考えれば良いだろう。
「水は持ってる?」
「はい。下山するまでには持つでしょう」
登山にあたって一番大切なのは水だ。もし登山中に脱水症状でも起こしたら、恐らく自分達は山の中でその短い一生を終える事になるだろう。それだけは避けたい。
「よし、じゃあ行こうか」
荷物は最大限軽くした。麓の宿に預けていった。後はただひたすら登るだけ。こうして僕は不安と、少しの好奇心を持って、登山を始めた。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・」
「はっ、はあ、はあ・・・」
山を登り始めてから大体半分程度の1時間半程経過しただろうか?しかしまだ先は長い。このままでのペースではバテる可能性がある。
「ユーリー、少し休憩しようか」
「っ・・っはあ、はあ、は、はい。そうですね・・・」
疲労の差は歴然だった。やはりここでも魔力量の恩恵は出ているのだろう。自分はまだまだ行けるのだが、ユーリーはかなり辛そうだった。 汗も出ているし息も上がっている。両手を膝について絞り出す様にそう言った。
「大丈夫?ユーリー、まだ半分くらいあると思うよ?」
「え!?・・・はあ、は、半分!?っはあ、はあ、だ、大丈夫ですよ・・・」
どうみても大丈夫そうでは無い。元々線が細くて体力がある様には見えなかったが、やはりいきなり登山という体力が必要とする運動は堪えている様だ。
「リュック、僕が持つよ。僕はまだまだ体力あるし・・・」
「・・・そ、そんな、悪いですよ。まだ半分もあるのに・・・」
しかし後半分、このままのペースでは日が暮れてしまうかもしれない。山での野宿は極力避けたかった。
「ほら、僕が持つから。とりあえずちょっと休憩しよう」
「あ、・・・もう・・・」
頑固だったので少し強引ではあるが、リュックをユーリーから引っぺがす。
少し嬉しそうな表情をしていたのは、気のせいだっただろうか?
「ここら辺のはずなんですけどね」
ユーリーが地図を確認しながらそう呟く。もう3時間は登っただろう。結局、ユーリーの荷物は自分が持って、彼女には地図を見て案内して貰う事になった。
「あのお爺さんは、森の中に突然現れると言ってたからね。多少見つけにくいところもあるんじゃない?」
周りを注視してみると、深い森の中だった。しかし、視界はそこまで悪くなく、このまま探せば見つかるだろうと言う所だった。
「うーん、登山道から近い場所にあるんで遭難する事は無いと思うんですけど・・・」
老人からは、遺跡に向かう道は獣道の様になっていると聞いていたので恐らくここら辺から登山道と別れる事になる。
「あ・・・」
すると、ユーリーが何かに気付いた。続いて僕も見てみると、登山道から分岐をする様に、人ひとりが通れる分のあまり整備されていない道が伸びていた。
「・・・地図上では、この獣道の先に遺跡があります」
「そっか、じゃあもうすぐだね」
これが老人の言っていた獣道だろう。この先に、目的地のエンディ遺跡がある。
「あとちょっと、もう少し踏ん張ろう」
「は、はい!!」
僕が景気付けにそう言うとユーリーも元気よく返事をしてくれた。
「ふっ、ふう、、まだ見えないな」
先頭には僕が立って、獣道を歩いている。道とは言うが、整備は殆どされておらず、藪漕ぎの様相を呈していた。なんとか道を外れぬ様にと、慎重に歩みを進める。
「ほ、本当にこっちであってるのかなー?」
不安な言葉がユーリーの口から出る。やめてくれ。ただでさえ疲れて来ているのにそんな事を言われたらもっと不安になる。
「多分、大丈夫・・・なはず・・・」
僕もこの道であっているのか不安になって来た。こんな所で遭難しては助かる方法は万が一にも無いだろう。なんとか到着してくれと祈りつつ、不安を払い除ける様に藪漕ぎを続ける。
___ガサっ___ガサっ___
獣道に入ってから、何分くらい経っただろうか。お互いに無言になり始めた頃、僕は足先に硬いものを感じた。
「・・・ん?」
歩みを止めて、足元を見てみる。
「どうしたんですか?ウィルさん」
ユーリーが突然止まった僕にそう聞く。
「・・・石だ。石畳だよ。こっから先、石畳の道になっている。藪が濃くて分からなかった」
と言う事は、ここは誰かが整備をした道になる。
「ほ、本当ですか!?じゃあ遺跡が近いのかも知れませんね!!」
不安だった心が晴れやかになっていく。とりあえず遭難は避けられた様だ。少し歩くと藪も薄くなり、石畳の道になったので藪漕ぎもしなくならずに済んだ。足取りは軽く、藪を漕いでいた頃の何倍もあるのではないかと言うスピードで歩いて行く。数分ほど歩いた後、それは見えた。
「・・・これが・・・エンディ遺跡・・・」
「・・・そうらしいですね」
その遺跡は、かなり広かった。入り口である石造の門には苔やツタが絡まっており、長らく手入れがされていない様子だった。所々壊れた場所も見受けられる。屋根が崩れたのか、柱だけが剥きでた場所も幾つかあり、遺跡全体が野ざらしにされている様な状態だった。過去には立派であっただろう遺跡を囲う様な塀も、所々崩れている。しかしどこか神秘的で僕はその姿を一枚、写真に収めた。
「とにかく、入ってみようか」
僕の言葉にユーリーが頷くと、人気のないエンディ遺跡の中に入って行った。
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