第4話
「ありがとうございます!!おかげでこの馬車も無事で済みました!!」
そこから少し離れた場所で、運転手にお礼を言われた。気づけばクライスリーの郊外まで来ており、ここまでは山賊も流石に追ってはこない。
「いえ、僕たちも必死だったので・・・お互い無事でよかったです」
あの賊が僕たちの命まで奪うつもりだったのかは定かではないが、あの状況下でよく逃げられたものだと自分でも思う。とにかく、旅が終わりを告げなかったことに安心していた。
「でも、よくあの場面で機転を利かせれましたね」
ユーリーが感心したようにそう言う。
「かなり無理やりだったけどね」
対して僕は苦笑いになっていた。あんな偶然に上手くいくことなどそうそうあるものではない。
「運賃はタダで構いません。助けてもらったお礼です」
「え?いいんですか?」
別に僕が助けた訳では無く、馬車が逃げるための隙を作っただけなのだが・・・しかし運賃が浮くのは素直に嬉しい。
「はい。正直これだけでは恩を返しきれないと思いますが・・・」
「い、いえいえ!無事なだけで何よりですから!!」
「そう言ってもらえるとこっちも心がすく思いです。クライスリーまではあと1時間ほどでしょう。幸い、賊から逃げた方向はクライスリーの方面へ向かっていましたから」
これが不幸中の幸いと言うやつだろうか、運転手が苦笑いになりながらそう言う。その後は、緊張感から解放されたからか、疲れが一気に来た。クライスリーの街まではあと1時間ほどで着く。
馬車に揺られながら考える。・・・今回は偶々運が良かっただけだ。これからは賊に襲われた際の対策も考えなきゃいけない。
クライスリーの街には夕刻前に着いた。高い建物もいくつかあって活気があると言うのが第一印象だ。
「おにーさん、これ買っていかない?カッコいいから特別に安くしておくよ?」
「はいはーい!!ハーヴィルから獲れた新鮮な魚だよー!!!」
さすが首都と言うべきか。今まで来た街で一番の賑わいだった。市場の屋台は奥までズラッと並んでおり、様々な物が売っていた。今日はユーリーが晩御飯を作ってくれるという事で、買い出しに行くこととなった。
「やっぱ首都はすごいですねー」
ユーリーはいろんな出店が気になるのか、あっちにこっちにと足が吸い寄せられていた。
「ユーリー。明日は朝早いんだから早く買い物済ませちゃおうよ」
女の子であれば買い物が長くなるのは仕方のないことなのだが、生憎明日は朝が早い。夜ご飯を作ってくれるのは嬉しい限りなのだが、明日に備えて今日は早めに宿へと戻りたいのが本音だ。
「うぅー、分かってますけど・・・ほら!ウィルさん!!あそこの骨董市なんて気になりませんか!?」
ユーリーがひと際目を輝かせたのは裏路地の入口の所にあった、骨董市の出店だった。普通の女子なら、服やらネックレスやらの店に目がいくものだと思うのだが、どうやら彼女は少し特殊らしい。さすが考古学者一家と言ったところだろうか?
「はぁ・・・ちょっとだけだよ?」
この目をするときの彼女はどうしようもならない。好きなものに対しては盲目になりすぎるところがあるのだ。観念したように僕はそう言うと、骨董市の方へと歩いて行った。
「わー、これ見てください!!ヒューレイと言ってかつてデリー王国で使われていた魔道具です!!あー!!こっちにはヤンボーもあるじゃないですか!!」
よく分からないユーリーの単語を聞き流しながら、うんうんと適当に相槌を打つ。テンションはやはり高い。日頃のしっかりとした姿からは考えられない、まるで子供がおもちゃを自慢しているような、そんな興奮の仕方だった。
「す、すごいね。よく分かるね・・・」
しかし異界者の僕としては、商品の説明をされてもさっぱりだ。ただ、嬉しそうに説明をする彼女を見ていると、自然と笑みが出る。
「おー、お嬢ちゃん、随分と詳しいじゃないか」
すると店主であろう人から話しかけられた。
「あ、どうも」
話しかけてきた店主は初老の男性で、白髪交じりの頭に、無精ひげを生やしていた。
「いい品揃えですね!!店主さん!!こんなに魔道具がある骨董市も珍しいですよ!」
依然としてユーリーは興奮しながらそう言う。魔道具は確か魔力を注入することで様々な効果を発揮する道具だ。しかし殺傷能力の高い武器系の魔道具は大陸全体の法律で禁止されているので、ここにある魔道具も掃除機のようなごみを吸ってくれる魔道具や、電気スタンドのような魔力を注入すれば光る魔道具など、日常に使えるものばかりだった。
「はははっ、ありがとねえ。最近はこういう魔道具を使う人も少なくなっちまって、ここで骨董市をしているのも家にあった物の在庫処理みたいなもんでのう」
一昔前の魔道具と言う事だろうか。確かに1か月お世話になったリーブランテ家で見たものとは少々形が違った。
技術の進歩があるのは、この世界でも同じらしい。
「お嬢ちゃんたちは?身なりを見る限り、ここの人間じゃなさそうじゃが、冒険者か何かかい?」
老人は好々爺といった感じで僕たちにそう聞いてくる。
「はい、私たちは考古学者で異界者の研究をしているんです」
「ほう、今時珍しいのう。して、このクライスリーには何を調査しに?」
「いえ、クライスリーには今日泊まるだけで、明日エンディ山にある遺跡を調査する予定なんです」
ユーリーがそう言うと、老人は驚いた顔をした。
「へえ、エンディ遺跡に行くのかい。あそこは山の中腹、森の中にあるからねえ。ちいと見つけにくいかもしれんぞ?」
「遺跡について、何か知っているんですか?」
老人は何か知っているような物言いだったので、僕は聞いてみることにした。情報が多いのに越したことはない。
「うむ、ワシはエンディ山の麓にあるラスヴィルと言う街から来ておってのう、偶にこうしてクライスリーの街まで来て、こうやって骨董市を営んでおる」
なるほど、地元の人だったか。なら遺跡の事も色々知ってそうだ。
「その、遺跡には何があるか知ってますか?」
「何もありゃせんよ。ボロボロになった建物の残骸と、アムリ語じゃないよう分からん文字が書かれた石碑があるだけじゃ」
石碑の事を聞いて少し気持ちが上がる。
「ユーリー、これって・・・」
「はい。・・・多分、異界文字でしょう」
小声でユーリーとそんな会話をする。この情報だけでもエンディ遺跡に行く価値はありそうだ。もしかしたら元の世界に帰れる手がかりがあるかもしれない。
「お前さんら、明日の朝に出発する予定かいな?」
「え?ああ、はい。そうです」
すると、老人からそんなことを聞かれた。
「じゃあワシの馬車に乗って行きなさい。ラスヴィルまでなら乗せて行こう。・・・さすがにワシは年じゃから、遺跡の前までは案内できんが」
「え!?いいんですか!?」
願ってもない展開だった。麓のラスヴィルまで足が確保できたのはかなり大きい。
「ああ、骨董市も今日で仕舞う予定じゃったからな。それに今回は大分売れたし、荷物が二人増えたところで大して変わらん」
「あ、ありがとうございます!!そ、それで・・・代金は・・・?」
しかしタダで乗せてもらうのも気が引ける。申し訳なさそうに聞いてみると老人は腕を組んで目をつぶった。
「うーん・・・そうじゃなぁ・・・」
少し考えこむと、思い出したかのように老人は自分の品に目を向けた。
「ここの商品、何でもいいから一つ買ってくれれば連れてってやるわい」
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