第4話 もしかしてゴリラですか?



「おい、皇女殿下が帰還なされたぞ!急げ!」


 帝国の兵達がざわついている。


 今朝から行方不明になっていた帝国第三皇女がボロボロの格好で帰還したのだ。皇女は王城にて保護され、皇女を連れ帰った近衛兵は事情聴取のため、皇帝の前に連れ出された。


「さて、まずは良くやったと褒めておこう。近衛兵長リンデルトよ……して、何があった。他の兵は何処へ?」


 皇帝の問いに、リンデルトと呼ばれた近衛兵は深々と頭を下げた。


「陛下、皇女殿下はいつもの家出で、今日は供回りを一人連れて周辺の森を散策していたようです」


 帝国第三皇女は、好奇心旺盛で時々城を抜け出しては皇帝を困らせている。そのたびに皇女を連れ戻していたのが、近衛兵長であるリンデルトであった。


 今回もいつもの事だとリンデルトは部下を二人引き連れて皇女を探しに出たのだが、戻ってきたリンデルトはボロボロで、彼の引き連れていた二人の部下と、第三皇女の供回りの姿は無かった。


「近衛兵長、何があった? 周辺に出没するモンスター程度ならソナタの腕なら問題にもならないであろう? 腕利きの盗賊でも出たのか……それとも、敵国の斥候にでくわしたか?」


 リンデルトは若くして近衛兵長に異例の抜擢をされた実力者だ。その実力は、国内でも並ぶモノは少ない。


「いえ、私たちが遭遇したのは ”ワイルドタイガー”です……」


 ワイルドタイガーという言葉に周囲の人々はざわざわと騒ぎ出した。


 ワイルドタイガー。高い身体能力と、分厚い皮膚、鋭い牙と爪、額に一本の角を有する巨獣の名前。その戦闘能力は非常に高く、正確も獰猛。ギルドは、そのモンスターの危険度をAランクと認定している。


「Aランクのモンスター……討伐するためには優秀な戦士を集めて、最低でも10人の討伐隊を組まねばならぬな」


 重々しくそう言った皇帝の言葉に、リンデルトは深く頷いた。


「して、そなたは娘を連れてワイルドタイガーから逃げ延びた訳か……しかし、周辺にワイルドタイガーがいるのなら、どうにか手を打たねばならないな」


「……いえ、陛下。対策をとらねばならない相手はワイルドタイガーではありません」


「どういうことだ?」


 眉をひそめる皇帝に、リンデルトは何かを思い出すようにゆっくりと語り出した。


「ワイルドタイガーは……死にました。いえ、殺されたのです。私の部下二人と、皇女殿下の供回りをかみ殺したワイルドタイガーが私に襲いかかろうとしたとき、どこからかやってきた未知のモンスターが、ワイルドタイガーに襲いかかり、あっと言う間に殺してしまいました」


「危険度Aランクのモンスターをあっと言う間にだと!?」


「……はい。何故かそのモンスターは私たちには興味を示さずに、かといって殺したワイルドタイガーを捕食することもせずにその場を去ってしまいましたが……」


「うーむ、訳がわからぬな」


「はい、しかし陛下。早急に対策は練るべきです」


「ふむ。その戦闘力、確かに危険だな」


 しばらく何かを考えた後、皇帝は口を開いた。


「近衛兵長、その未確認モンスターの討伐指揮をソナタに任せる……兵は好きに動かして良い。確実に仕留めろ!」


「はっ!仰せのままに」





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