出し物決め

昼休み。教室の中はいつもに増して賑わっていた。黒板の前には、案を書こうするクラスメイトがわらわらと集まり、やれチョークが無い、やれ黒板消しが無いと騒がしい。


「弦也男、何か考えてきた?」


そんなみんなの様子を眺めていると、カミラがつかつかと近づいてきた。腕を組んで、難しい顔をしている。


「考えてはいるんだけどさ、ありきたりなものしか浮かばない。おばけ屋敷とか」

「だよね。ちなみに、隣のA組はホラーハウスらしい。西洋風の人形持ってないかって聞かれた」


隣のクラスっていったら、きずナか。相当張り切っているんだろうな。「きずたちが最優秀賞に輝くんだから!」と宣言する彼女を、安易に想像できる。空回らなきゃいいけど。


「となると、おばけ屋敷は厳しいな。似たようなつくりになることは否めないし」

「やっぱ、そう思う? 最優秀賞を狙うなら、他とは全く違うものがいい気がするんだよね」


カミラは頭を抱え、うんうん唸っている。


「あ、もし分かってるなら教えてほしいんだけど、隣のクラスだけじゃなくて、他の学年、学級の出し物ってどうなってる?」

「一応、調査してきたよ」


彼女は自分の机から、黄色いノートを持って戻ってきた。




〈1年〉

A組→おばけ屋敷 

   井戸から女の子 レベル高そう

B組→休憩所  

   準備が楽だからとのこと

C組→喫茶店

   とは名ばかりの、実質休憩所


〈2年〉

A組→ホラーハウス  

   西洋の人形 探し中 呼びかける

B組→未定

   早く決めなきゃ!

C組→びっくりハウス 

   びっくり箱とこんにゃくで驚かすみたい


〈3年〉

A組

→お帰りください、領主様 〜門前払い食堂〜

 コンセプトカフェ的なもの??

B組

→シラフでIPPATSU芸大会

 〜真っ昼間、酒は頼れないぜ、センセイ〜

 教師と生徒の熱いバトルが見られるらしい

C組

→弐王頭の歴史

 貴重な資料を展示する予定だそう




「3年生、すげえはっちゃけてるな」

「ね。C組だけだよ、真面目なの」

「いささか真面目すぎないか?」


良い企画なんだけど、他が強烈すぎて、逆に浮いている。


「ていうか、裏ありそう」


カミラは『展示』の文字をくるくるなぞりながら、何やら真剣に考え込んでいる。3年C組か。そういえば、俺の所属する部活の長がいるところだ。あの人にそれとなく聞いてみようかな。ま、裏なんか無いだろうけど。


「おい、カミラ。案が出揃ったぜ」


すっかりやる気になった瀧が、ビシッと黒板を指差す。右から順に、おばけ屋敷、喫茶店、映画館……。どれもパッとしない、ありがちなものばかり。彼女もそう思ったのか、大きなため息と共に首を振った。


「最優秀賞取るには、パンチが足りないと思ったんだけどよー。これ以外に思いつかねえんだ」


瀧の言葉に、クラスメイトたちが賛同する。


「どうしよう。ただでさえ時間ないのに」

「他のクラスは決まってるんでしょ。まずくない?」


あちこちから出始める不安の声。どうしたものかと手をこまねいていると、前の席に座っていた中西紡なかにしつむぐが立ち上がった。


「占いの館はどうでしょうか!」


思ってもみない提案に、一瞬時が止まった。


「……占いかぁ」

「それもありがちくね?」

「てか、占いってどうやってやんの? やったこと無いんだけど」


微妙な反応だ。だけど、彼は怯まない。


「ただの占いじゃないんですよ! 占いってもので」

「なんじゃそりゃ」


聞いたことのない胡散臭い占いに、全員が顔をしかめた。


「調べてみたけど、そんな占いないぞ」

「中西ィ、適当なこと言うなよ」

「冗談とかクッソいらんから、本気で考えて!」


ブーイングの嵐に、たじろぐ中西。なかなか決まらない状況に、みんな気が立っているのだ。


「と、とりあえずさ、最後まで話を聞いて下さい。それで、バカふざけんなって言うなら諦めますから」

「だそうだ。聞いてみようぜ」


パンパンと手を叩き、瀧が注目を集める。クラスメイトたちは一斉に背筋を正し、どんなものかと鋭い視線を送る。期待や諦め、不安などの感情が入り混じる教室で、果たして中西の案は受け入れられるのか。


「まず、背中押し占いなんですが、厳密に言うと占いじゃないです。僕考案の……なんて言うんでしょう。いや、実際にやってみたほうが早いですね」


中西はうんうんとうなずいて、後ろを振り返った。


「……俺?」

「いいえ。カミラさんです」

「私!?」

「はい。ちょっと、背中押しさせて下さい」

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