校長は策士

「んーっと、つまり振替公演的な解釈でいいの?」

「やったあ、さいこ〜〜〜!!」

「マジ何する? あーしはやっぱ、メイド喫茶かな」

「あるあるすぎて面白くないって、それえ」


コンパクト身だしなみ隊(手のひらサイズの鏡と、折り畳めるくしを常に持ち歩き、「今、前髪のどこを整えたんだ?」と男子高校生に疑問を抱かせてくる隊)が、きゃあきゃあと楽しそうに声をあげる。それにつられるように、周りの女子たちも飛び跳ねて喜んでいる。


「ダルッ。俺、何もやりたくねえわ」


大半の男子が、思ってはいても言葉にできなかった本音を、瀧雅美たきまさみが代弁してくれた。彼は「くだらねえ」と呟くと、机の中から単行本を取り出した。話し合いに参加する気は無いようだ。重い空気が流れる中、黒板に落書きの真っ最中だったカミラが怪しげに笑い出した。


「なんだよ、会子」


瀧はあえてカミラを本名で呼び、煽る。対する彼女はどこ吹く風。余裕な態度を見せることで、瀧を刺激する。まさに一触即発。火花を散らす二人のそばで、俺たちはオロオロすることしかできない。


「雅美、いいよ。参加したくないならサボっても。もちろん、他のみんなもね」


ぐるりと教室を見渡し、一人ひとりに言って聞かせるカミラ。これは珍しいことだ。『イベントZZS(全員全力参加)』をマニフェストに掲げていた彼女が、にお高祭だけ特別扱いするはずがない。

それはつまり。


「何か企んでる」


俺の言葉に、瀧もうなずく。


「だな。それか、すでに参加せざるをえない状況をつくってあるか。どっちだ?」


瀧の額から、一筋の汗が流れる。


「やだなあ。私を悪女みたいな目で見ないでよ」


彼女はくすくす笑いながら、スカートのポケットからプリントを取り出した。3つに折られたそれを広げ、俺の机の上に叩きつける。もっと優しく置けよ。


「弦也男、読みなさい」

「はい。えー……」




   弐王頭高等学校文化祭開催について

台風の上陸により中止となっていた文化祭ですが、この度、学校内外からの強い要望もあり、来たる12月2日に開催することが決定しました。ただし、通常2日間開催のところ、1日だけとなります。

よっしゃ頑張ろう、にお高生!!

                  by 校長




「はあ!? 2日って、再来週じゃん!」

「また無茶言ってるよ、校長」

「内外からの要望って、本当にあったのか? 校長と愉快な親族たちからってオチじゃないよな?」

「シッ! 静かに。まだ続きあるから」


どうぞ、とカミラが俺に先を促す。




P.S.〜

最も優秀な発表をしたクラス、部活には、すんばらしいご褒美を用意しています。俄然、やる気になったでしょ♡




「ピーエス? 何それ」

「知らねえけど、エグそうじゃね? 最新ゲーム機とか?」

「バーカ。んなもん、校長が用意できるわけねえだろ」


バーカ。P.S.は追伸って意味だろ。


「とにかく、これはやるしかないと思わない?」


カミラの呼びかけに、みんながうなずいた。さっきまでつまらなそうな顔をしていた男子たちの目にも、光が宿っている。あっさりと物に釣られてしまったわけだ。


「それじゃ、出し物は昼休みにね。それまでに何がいいか考えておいて下さい。解散!」

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