田中 会子
翌日。眠い目をこすりながら登校すると、ゲーム仲間の松浦が、ギョッとした顔で二度見してきた。
「弦也!? お前やべーぞ! そのツラ、ゾンビみてえ!」
「……うるさい。デカい声出すな。頭に響く」
そんなこと、言われなくても分かっている。今朝、洗面台に立った時、俺も同じことを思ったから。真っ青な顔に、今やデフォルトと化したくま。ゾンビになりかけていると言われても、すんなり信じられるくらいだった。さすがにまずいと思って、妹のファンデーション?クリーム?みたいなものを勝手に拝借してきたのだが、どうやら効果は薄いらしい。
「なあ、昨日は何してたの? 俺からのゲームの誘いを断ってさ」
「悪かったな」
「いや、別にいいよ。都合つかない日ってあるし。ただ、あまりに顔色悪いから気になってよ」
「……霊の言葉に耳を傾けてた」
何を思ったか本当のことを話してしまい、すぐに後悔した。松浦の口角が、にやーっと上がる。当然の反応っちゃ反応だけど、やはり信じてもらえないものかとショックもある。
「今のはジョークな」
「分かってるって。お前がそういうこと言うの珍しくて、ちょっと面白かったわ。ちょーーーっとな」
ケラケラ笑う松浦に気づかれないように、小さくため息をつく。誰もが見えるわけじゃない、理解できるわけじゃない世界を知っているというのは、なかなかに苦しい。相談もできないし、冗談を言ったか頭がおかしくなったかのどちらかに当てはめられてしまう。孤独だ。頬杖をついて感傷に浸っていると、教室のドアが勢い良く開け放たれた。
「セーイ、おはよう!」
「おはよーー!」
「よっす、カミラ」
元気いっぱいに飛び込んできたのは、ハーフツインの少女。このクラスの学級委員長で、名前は
「随分不満そうだね、
そうそう。他の人を呼ぶ時は、名前の下に男とか子とかつけてくるんだよな。自分がされて嫌なことは、人にしちゃいけないって習わなかったのか。普通に名前で呼べよ。
「いや、そんな。滅相も」
「カミラさん。確かにコイツは態度悪いですけど、それは睡眠不足のせいで……」
「いつものことながら、
嫌味ったらしく吐き捨てると、カミラは俺の机の上にハンカチを広げた。マジックショーをするわけではない、座るためだ。一応、気を遣っているのだと思うと、強く文句を言えない。だけど、それをいいことに好き勝手されるのは困る。
例えば、こんな風に。
「顔、借りるよ」
返事を待たずに、彼女は俺の顔を両手で包み、クイッと上にあげた。透き通るような茶色の目が、至近距離にある。ドキッとはしたが、動揺するのも格好悪いから平常心を装う。『ポーカーフェイスの弦也』として、ババ抜き界隈をブイブイ言わせていただけあって(嘘)、カミラも気づいていない。そのうち、つまらなくなったのか、あっさり俺を解放してくれた。
「良く考えたら私、弦也男にかまっている場合じゃないんだよね。ごめんネ」
やかましいわ。
「ハイハイ、皆さーん。今日は読書の時間を使って、文化祭の話し合いをします。てことで、席についてちょうだい♪」
文化祭?
クラスメイトたちは顔を見合わせ、首をかしげている。それもそのはず。にお高祭は、毎年9月末に開催されるイベントで、今回は台風により中止になっていた。
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