寝不足脱却への道

分かっている、俺だって。何も根拠がないって。あんなもの、かにクリーム寺本の妄想であって、真実だとは微塵も思っていない。だけど、疲れ切った俺には全てが救いに見えた。睡眠不足は人を弱らせ、死にたらしめることだってある。それはもう、どんなものにだってすがりつきたくなるだろう。だってさ、これでうまくいけば上々じゃん!

加えて、今朝の男のこと。それが気になっていた。もしかしたら、彼に出会ったことは必然なのかもしれない。睡眠の神が、寝不足の俺を気遣って、もしくは愛想の神が、目元のくまのせいで嫌なやつだと勘違いされる俺を憐れんで。それで、あの不思議な男を派遣した!きっと、そうだ!これはチャンスなんだ!

死霊使いの子孫を見つけて、俺の家に訪れる霊たちのことを聞きなさい。さすれば、道は開かれん!!!!!

……後にこのときを振り返ると、頭がわいていたとしか思えないが、当時の自分はそれほど追い詰められていたのだ。我がことながら可哀想すぎる。


かくして、おかしな考えにいたった俺は、死霊使いを探すというゴールの見えない道を進むことにした。そうと決まれば、学校に行っている暇はない。踵を返して、自宅方面へと戻る。母さんに見つかると厄介だから、近くの図書館で情報を整理することにした。


「さあ、アチラガワ大解剖。俺に力を貸してくれ……!」


雑誌を小脇に抱え、はやる気持ちと共に先を急ぐ。こんなに図書館を求めたことが、かつてあっただろうか。小学生の頃なんかは、絵本や児童書を借りに足繁く通っていたが、高校生になってからはそんなこともなく。図書館とは縁のない生活を送っていた。久しぶりだな、ここに来るのは。なぜか、緊張する。意を決して扉を開けると、暖かい空気が全身を包んだ。ありがたいけど、ありがたくない。ケチつけるようで悪いけど、歩いたりなんたりしてたおかげで、体はそれなりに温まっていたのだ。正直、暑い……。


「おはようございます。どうぞ」


額の汗を拭っていると、受付の女性に声をかけられた。長い毛を一本に編んだ、ちょっと厳しそうな感じの人だ。どうやら、本を返しに来たものだと勘違いされているようだ。


「あ、これ、自分ので」

「ああ、そうですか」


女性は素っ気なく答えると、奥に引っ込んだ。と思いきや、もう一度顔を出した。俺の頭からつま先まで、じろじろと見てくる。なんだよ。俺、何かついてる?


「あなた、ちょっとこっちに来なさい」

「え」

「その制服、にお高のでしょ。ウチの息子が通っているところだから分かるわ」


にお高というのは、俺が通う弐王頭高校の愛称だ。いや、そんなことよりも!この状況、まずいんじゃないか?やっと理解が追いついた。このままだと、学校や家に連絡がいってしまう!どうしよう。サボりがバレたら、ネチネチーズに怒られ、母さんに怒られ、うわっ最悪!なんとか言い訳を……。


「言い訳しようったって、無駄だからね。全く、学校も行かないでフラフラして。ご家族に申し訳ないと思わないの?」


心読まれた!っていうか、やっぱり心って読めるんだな。俺が分かりやすいやつってだけなのかも。今思えば、考えてることがすぐ顔に出るって、昔から評判(?)だったもんな。ハ、ハハハ……。がっくりうなだれた俺を見ても、受付さんの説教は続く。もう、好きにしろよ。親でも先生でも総理大臣でも呼んでくれ……。


「あれ、弦也先輩?」

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