死霊使い伝説

どれくらいの時間が経過しただろう。ふと我に返り、いそいそと路地裏から出る。学校、行くんだったな。さっきのできごとが強烈で、頭がぼーっとする。しっかりしろ。両手で頬を叩き、ぶんぶんと顔を左右に振る。


それにしても……。貰った雑誌の表紙を眺めながら、俺は失礼なことを考えてしまった。これ、すげえ胡散臭え。今まで見てきた雑誌の中で、ダントツのトップだ。ソース載ってないし、信憑性の薄さったらない。ただ歩いていても暇だし、気になる記事をかいつまんで読んでみるか。そう思い、目次に目を通す。


「『エグすぎ心霊スポット〜命知らずの墓場〜』『誰でもモテます。イケちゃいます。最新恋愛パワースポットに行こう』『おめえの話聞かせろや!〜なんでも受け止めたる老人の部屋〜』……」


口に出すと、改めて分かるクセの強さ……。うん、この雑誌は買わないな。あの人には悪いけど、確実に押し入れ行きだ。


「『丸山式幽体離脱の書』『山育ちのあの人より霊界通信』」


でも、なんだろう。すごく惹かれる。嘘だと思いながらも、ワクワクしている自分がいる。丸山さんが誰かは知らないけど、幽体離脱には少し興味があるし、霊界があるならコンタクトをとってみたい。


「『大好評! かにクリーム寺本の伝説集め〜イン弐王頭町におうずまち〜』」


これとか、結構面白そうだな。色々な場所の伝説を調べて、詳しくまとめるコーナーか。へぇ、この間はお隣の駄駄町だだちょうに行っている。今回は、俺が暮らすこの町が舞台だ。少し気になって、ページを開く。




『弐王頭町に伝わる死霊使い伝説に迫る!』


どうも、かにクリーム寺本です!

今回は弐王頭町の取材ってことで、編集部を飛び出し、新幹線でビューンとやって参りました。いやあ、長かった(笑)当初は夜行バスって話もありましたけど、新幹線で良かったですよ、ホント。心の底から感謝です!夜行バス案を出した鬼畜編集長、もつ鍋氏には憎しみしかありません。苦手だとウワサのちくわを大量に送りつける予定です。覚悟しとけ!(笑)


さてさて、弐王頭町。ド田舎だと聞いて来たのですが、意外にそうでもなかったです。高層ビルなんかはありませんが、コンビニやショッピングセンターなどの生活する上で便利な店。大型の遊園地、魚の形を模した水族館、雰囲気のあるプラネタリウム。観光に力を入れているのか、土産屋や伝統芸能の体験施設なんかも充実していました。遊び呆けてえ……。ほどよく田舎味を感じる都会?ほどよく都会味を感じる田舎?そんな感じで伝わるかな。この間行った駄駄町よりも、こっちのほうが好きです。個人的に。


そんな弐王頭町に住む、元気ハツラツな62歳。五十子いらごヨチさんより聞いたお話。それが、今回のタイトルにもあります、死霊使い伝説。死霊使いって、僕は初めて聞きました。魔法使いと同じ類なのかな。気になって調べたら、昔は占い師のような存在で、死霊に力を借りて、人々に助言を行う的な?らしいです。曖昧ですみません。

以下、ヨチさんとの会話をまとめたものです。世間話は編集の都合上、カットさせていただきました。ゴメンなさい!


五十子ヨチ(以下、ヨチ)

「この地には、死霊使いの子孫がおるという話を聞いたことがある。本当かは知らないけどねぇ」

かにクリーム寺本(以下、寺本)

「死霊使いの子孫……。それって、ここらじゃ有名なお話なんですか?」

ヨチ「いんや、あまり知られてないねぇ」

寺本「へぇ、そうなんですね。気になります。詳しく教えていただいても?」

ヨチ「ワタシもそんなに詳しくないよぉ。アハハ」

寺本「分かることだけでいいですよ」

ヨチ「うん。あのねぇ、死霊使いの子孫ってもね、本来の力をそのまんま受け継いだわけじゃないみたいよぉ」

寺本「本来の力というと、死霊にアドバイスをもらう……みたいな?」

ヨチ「そうそう。そんなことよぉ」

寺本「じゃあ、何ができるようになったんでしょう」

ヨチ「何だろうねぇ。そもそも、子孫たちは力に気づいていないんじゃないかって思っちゃう」

寺本「なるほど。それもあるかもしれませんね」

ヨチ「うんうん。死霊さんたちも出番がなくなって、ゆっくり休んでいるんじゃないかしら」

寺本「そうかもしれませんね」

ヨチ「そうよそうよ。それがいいわぁ。好き勝手飛び回って、誰かにちょっかい出してたりしたら大変だし」

寺本「ハハハ。ちょっとお茶目な死霊ですね。夜に枕元でこしょこしょ囁いてみたり、実はこっそりお風呂をのぞいていたり」

ヨチ「アハハ、お風呂のぞきってやだわぁ。寺本さん、やってないでしょうね?」

寺本「勘弁して下さいよ、ハハハ」



              →次ページへ続く



ビビビビビッと衝撃が走った。寺本さんの話していた、お茶目な死霊のくだり。枕元でこしょこしょ囁く……。こしょこしょって言うより、ボソボソブツブツだけど!


「キタコレ!!!」


俺を毎晩悩ませていたのは、その『お茶目な死霊たち』なんじゃ!?

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