第21話「かのんシャドウ其ノ八」

 そして時は放課後。

 西園さんたちが集めてきた情報を聞いて、僕達はそれをまとめていた。彼女らが集めてきた情報のほとんどは噂で聞いていた通りのもので、新しいものは少なかった。


「新しい情報と言えば、ストーカーは一人ではない、かな」

「一人じゃない?」

「うん。野球部の三宅陽太っていう人から聞いたんだけどね。ストーカーの噂自体は1ヶ月前から出てて、一週間ごとに目撃されるストーカーの体格が違うらしいって」


 桜花が顎に手を当てながら言った。


「一か月って9月からってこと?」

「9月の中旬くらいからよ」


 一週間ごとにコンスタントに目撃され続けているストーカーというのも変な話だ。最初の一人目はともかく二人目以降は捕まえられる可能性を考慮していないのか。ストーカーなんて犯罪行為に及ぶんだ。バカの犯行ではあるまいと僕は思いたい。


「一週間で別人と思うほどに痩せたり太ったりは……無理だよな」

「ええ。だから少なくとも今週のを合わせて五人はストーカーはいるということになるわ」


 一人じゃないというのは困った。ストーカーが一人だと思い込んでいたから、依頼を受けたのもあったので、僕は早々にやる気を削がれていた。


「後は、ファンの話ね。この学校にはかのん様のファンは結構な数がいるらしいけど、毎回ライブに行ったり、イベントがあれば日本全国追いかけるようなファンというか大ファンね。5人しかいないらしいわ」


 西園さんが手帳を見せてきた。そこには三宅陽太から聞いた大ファンの一人の名前が書いてあった。バスケ部、榊信人と。


「その五人は顔見知りなのか?」

「ええ。全員顔見知りどころか友人らしいわ」


 西園さん曰くストーカーは四人か五人。そして大ファンの数は五人。まあ大ファンならば分別はついてるだろうからストーカー行為に及ぶとは到底思えないが、この数の一致には何か意味があるのだろうか。

 恭弥がこほん、と咳払いをした。


「次は俺だな。俺は山井来々留というやつに聞いたんだがらストーカーの噂が出てから有栖川かのんに話しかける奴が一気に減ったらしいぜ」

「そんなのわざわざ聞かなくても分かることだろ」

「む」


 毒にも薬にもならぬ情報を仕入れてくるとは流石恭弥だ。

 西園さんが手を挙げた。


「何で聞かなくても分かるの?」

「ストーカーの噂が出てる有名人に近付いたら自分がストーカーかもしれないって他の奴から疑われるだろ。有栖川かのんに特定の友人はいないのは全員が知っていることだ。そんな彼女に執拗に話しかける奴がいたらまずそいつがストーカーだって誰もが思うだろ」

「なるほどね。さすが黒幕」

「すげぇ適当な褒め言葉ありがとう」


 西園さんが滑らした言葉に桜花が食いついた。


「黒幕? 何の話?」

「何でもいいだろ。じゃあ次は……」


 僕が話そうかと言おうとしたが、僕の言葉を遮る様に桜花が手を挙げた。


「はいはい! 私が発表しまーす。私が聞いたのは目撃されたストーカーは全員紙袋の覆面を被っていたでーす。まあこれは本人から聞いたんだけどね」


 その情報は僕と桜花さんでケリを付けた問題だ。だけど恭弥や西園さんにも情報共有はしておくべきだ。

 恭弥が手を挙げる。


「紙袋の覆面か。その紙袋がどこで仕入れたものかは噂にはあるのか?」

「噂には無いけど、多分この学校の購買の物だと僕と桜花は考えてた」

「根拠はあるのか」

「無い」


 それに紙袋がどういう経緯で使われたかなんて案外どうでもいいのだ。購買から入手できる以上、この学校の生徒なら誰でも使えるのだから。


「じゃあ次、つうか最後は僕か」

 

 僕と桜花は早々に暇を持て余し、情報収集を少しは行っていたのだ。

 僕は手帳をめくる。しかし噂でしかないので、荒唐無稽な情報しかない。最初から考慮する必要も無さそうな情報をひたすらに削っていくと、一つだけ残った。が、それも割とどうでもいいものだった。


「ストーカーの噂が流れる前後辺りから、有栖川花音は地味な女生徒と一緒に居ることが多くなったっていうのしかねぇな」

「地味な女子。じゃあストーカーじゃないよね」

「ああ。それに恭弥が話したものもあるし、誤情報なんじゃねえかなとは思ってる」


 集めてきた情報はこんな感じだった。

 つまりは全く分からんということだけが分かった。

 有栖川かのんには元から友人はいなく、ストーカーの話が出て以降は、野次馬じみた生徒も彼女を避けるようになった。彼女のファンは多いが、大ファンとまで呼べるのは榊信人含めた五人しかいない。というか殆どがミーハーかただのファンなのだろう。

 ストーカーは紙袋を装備して正体を隠す。ここまでが分かった情報だ。相も変わらずストーカー本人に繋がりそうな情報は一切無い。


「ストーカーってこの大ファンの人たちなのかな」


 西園さんの呟きに恭弥が反応した。


「いやこういう奴らはアイドルを大事にする」

「でもさテレビとかでアイドルに迷惑をかけるのもこういう人達よね」


 桜花の容赦のないツッコミに恭弥は困っていた。まあ桜花の話も分からなくはないが、僕は恭弥の言う事が今回は正しいと思っていた。


「榊信人含めた五人の中に恭弥もいるんだろ。西園さんの話ならそいつらは全員顔見知りらしいしな」

「そうだ」


 恭弥は何の気なしに言った。何故最初から言わないのか。 


「きょーちゃんの友人なら犯人じゃないかもね」

「ああ。恭弥の友人にストーカーなんて器用な真似ができるなんて思えん」

「随分な言い様だな」

「じゃあ結局誰が犯人になるのかしら」

「そりゃあ大ファン以外の有象無象の中にいるとしか言えないだろ」


 個人に繋がる情報は少ない。そしてストーカーの目撃証言から答えを割り当てるなど僕らみたいな高校生では不可能だ。だって僕らは探偵ではないのだから。


「やっぱり直接ストーカーを見るしかないのかもな」

「かのん様に頼まれてた件ね」

「ああ」


 僕は花音から帰り道に護衛をするように頼まれていたのだ。後ろから、見えない位置で、付いて来てもらうように頼まれている。


「そういえば昨日、かのん様から聞いたんだけど」


 と西園さんは前置きして言った。


「彼女はファンとそうじゃない人間の区別はついてないみたいよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る