第6話「はるかアゲインPart3」

「なあ恭弥、部活に入りたくない理由ってどんなのがあるか?」


 西園さんのスカウトに失敗した僕は事情を話した上で恭弥に相談していた。彼は面倒に思いつつも、スマホで流していたアニメの再生を止めてくれた。 


「それを俺に聞くのか?」

「辞めてるお前だから言うんだよ。ちなみに面倒臭いは無しな」

「ああ貴様、部活面倒臭いとか言ってたもんな」

「そうだ。という訳でここは一つ冗談抜きで頼む」


 あの西園遥が僕なんかと同じ理由で部活に入りたくないとか言わないはずだ。それに昨日弓を引いていた彼女は楽しそうだった。そして僕からの誘いを断るときの彼女は、どこか申し訳なさそうに見えたのだ。普通にやりたくないだけならあんな顔はしないだろう。少なくとも僕ならばそうだ。訳アリだからこそ彼女は申し訳ないのだ。

 僕の真剣な表情に恭弥は、


「人間関係だろうな。俺みたいに嫉妬されてそれに生じて起こる周囲との確執じゃないか」

「……」


 彼女のあの実力なら嫉妬されるのもあるだろう。恭弥が西園さんを一瞥して言った。

 

「あの女子を誘うのは、ふっ難しそうだな」

「何でだ? 人間関係なら転校でリセットしているだろ」


 恭弥がはっと喉を鳴らした。まるで「分からないのか?」とでも言われている様で普通に殺意が湧いた。


「あんな美人が貴様みたいなクズと一緒に部活をしてくれるかって話だよ。俺なら恥ずかしくて学校来れなくなるな」

「それをお前に言われるのだけは心外だ。顔と運動神経以外は残念野郎」


 恭弥が机にドンと手を突いた。


「貴様! それを俺の嫁達の前で言ってみろ!」

「嫁って全部モニターの中じゃねえか!」

「あの子達を侮辱する気か貴様! 殺してやる!」

「もうヤダこいつ」


 これで何度目かになる殺害宣言をした後、恭弥は一度ため息をついて落ち着いた。


「俺と似たようなものだからだよ。俺だって今からサッカー部に入れと言われたらいやだし、転校したって入る気はない。むしろ何か新しいことを始めたくなるな」

「新しいこと……か」


 彼女を誘うのは無理なのだろうか。僕が部長で部を立て直すにあたって、彼女の存在は必要だと感じていた。というか違う。僕が部を立て直したいのは彼女の射をもう一度、何度だって見たいからだ。どうしてこんなことを思うのかは不思議だが、そうそう諦められるものでもなかった。


「僕は絶対に諦めないぞ……!」

「しかし貴様、変わったな」

「何だよ藪から棒に」

「以前までの貴様なら部を立て直せって言われてもやろうともしなかっただろう。それをそこまでやる気になってるんだ。どう見ても変わっている」

「僕が変わるって何でだよ」

「それは知らないが。まあ男が変わる理由なぞ、そうそう多くは無い。心当たりはあるが、それは自分で気づけ」


 なぜ僕の変化に恭弥が心当たりがあるのか。自分のことは意外と分からないとは言うが、ここまで理解不能なのは初めてだった。特にこいつが分かっているという辺りがだ。


「意味が分からねえ」

「野郎の無自覚は誰も得しないぞ」


 恭弥が手元のスマホでアニメを再生させながら言った。


「……」


 そして彼はアニメの画面を僕に見せる。そこには金髪のヒロインが主人公に告白されて真っ赤になっているシーンが流れていた。


「お前の仕事はヒロインを引き立たせる事だろうが、主人公」

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