第一章「はるかアゲイン」
第4話「はるかアゲインPart1」
日本最古の物語といえば、未だに作者不明の竹取物語だが、この作品の中でかぐや姫が自分に求婚してきた五人の帝に無理難題を押し付けるという展開がある。これはかぐや姫が五人の帝からの求婚を、受ける気が無いから無理難題を押し付けて諦めさせたというものであると僕は認識しているし、他の人にとってもそれが大体の認識だろうが、しかしこの場で僕が考えたいのは無理難題を押し付けた理由の方だ。
かぐや姫ならば、彼女が下宿している家の人たちに迷惑が及ばない様にしたとか理由は考えられるが、あの幼女の顧問が僕に弓道部の再建なんていう無理難題を押し付けた理由に関しては一晩明けた今になっても分からずじまいだ。
あの幼女は一体僕に何をさせたいのか。考えても考えても納得できる結論が浮かばない。浮かばないものは考えても仕方がない。
「うっす、何だ眠そうな顔してるな」
机に突っ伏している僕に声をかけてきた人物がいた。こんな僕だが一応友人はいる。彼はその一人であり、彼という三人称から分かる通り男子生徒だ。
名前は奥田恭弥。元サッカー部の友人だ。夕日の様な赤い髪に、切れ長の目。耳にはピアスを付けていて、高身長で運動神経も高いというイケメンだ。制服のブレザーは着用しておらず、着崩している。彼の趣味やそれにかける情熱は模範生とは言いがたいが、この学校に模範生はほぼいない。
「眠いというか、まあ色々あってな、ちょっと頭の整理がつかない」
「色々?」
「金髪の美少女とか、白髪の幼女とか」
「……白髪の幼女……?! 貴様、それについて詳しく……!」
「何でもない」
興奮して僕に詰め寄ろうとしてくる恭弥をスルーした。関わると面倒臭い。僕は彼が手に持っている手紙を見た。綺麗な封筒だ。それが示すところは……
「なあ恭弥。それってまさか……」
「ああ、俺宛てのラブレターだ」
こいつは何を言ってるんだ。
「いや殺害予告じゃないのか?」
「何故そう思う?」
「お前みたいなオタクがモテる訳ないだろ?」
「……」
ここまで無自覚だと笑えてくる。まさか自分がイケメンだからってモテると思っているのだろうか……そういえばよくモテてたな。ああ嘆かわしい。
「何故ここまでモテるのにオタクなんだろうな。神は残酷と言うが、お前がそれじゃあ女の子が可愛そうだぜ」
彼はオタクなのだ。それもキモオタと言われるくらいの。休日になると何かのアニメのイベントに引っ張りだこになっていて、サッカー部時代も何度かそれで休んだという話を本人から聞いた。
ぶちっという音が聞こえた。見上げるとそこには眉間に深いしわを寄せた恭弥がいた。
「匠、お前言ってはいけないことを言ったな。屋上に来い。月に変わってお仕置きしてやる」
「……微妙に怖くない啖呵やめろよ。それにお前と僕じゃ喧嘩にならないだろ」
恭弥は運動神経は相当高い。中学時代では所属していたサッカー部を全国大会優勝という快挙にまで押し上げ、超高校級のサッカー選手とメディアに取り上げられたこともある程に。そしてそれは喧嘩の強さにも表れている。武器ありの不良十人に囲まれて、無傷で全員倒したという話は有名だ。頭はあまり働かない方なので、そこで僕に僅かながら勝機があるのだが、勝てない喧嘩は僕はしない主義なのだ。
まあラブレターは本物だろう。顔がいいのは本物なのだ。オタクの本性を知らなければ一目ぼれしてもおかしくはないだろう。
「で、返答は?」
「会ってみないと分からないだろう。俺はこれをくれた女子のことを良く知らないしな」
そしてこいつは意外とガード固めだ。というかあまり興味が無いと言えばいいのか。二次元を超える三次元は無いだとか言って、アニメキャラに傾倒しているのだ。
「何でこんな残念野郎にラブレターが来るんだよ!」
僕は一度も貰った覚えが無いというのに。
「やはり人柄が現れるんだろうな」
「見た目しかいいところ無い奴が何言ってんだ」
「貴様……まあいい。それより聞いたか? ウチのクラスに転校生が来るんだが……」
うちのクラスに転校生……確実に西園遥だろう。同タイミングで転校生が二人なんていう奇跡でも起きない限りは。しかし同じクラスになるとは、奇妙な縁でもあるのだろうか。探す手間が省けたと言えばラッキーだが。
「一体どこの美少女だろうな」
「知ってるのか? 転校生が女だって」
「何を言っている? こんなよく分からない時期に来る転校生は女子と相場が決まっているだろう」
「決まってねえよ。どこの世界の常識だ」
頭の中が完全に二次元に染まっている。まあ美少女の転校生という彼の世界の常識は今回に限って外れてはいないのだが。
「隣の部屋に住むお嬢様系ヒロイン……、ミステリアスだが裏では世界を守る戦いをしている系ヒロイン……実は存在していた義妹形ヒロイン。夢が広がるな有村!」
「広がらねえよ」
「とはいえ、粘着質なストーカーの如き情報収集能力を持つ貴様だ。もう知っているのだろう」
「人を何だと思ってやがる。知ってるけどよ」
それも会って話もしている程に。
「ほう……」
恭弥がいつになく真面目な顔をしていた。男子だったら血を吐いて倒れていただろう。それを考えると残念だった。
「女子だよ。金髪の……美少女だ」
頭の中に急に昨日の出来事が思い浮かび、照れて上手く言えなかった。胸の中に湧きかけた甘い何かは、
「ゔおおおおおおおお!!!!」
目尻から血を流して歓喜する恭弥を見て消えうせた。
「……」
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