第4話 動物病院が欲しい
襲撃訓練からそう時をおかず、ある朝のこと。国際獣医学会誌を流し読みしながら、MIPは友達に相談した。
「ねぇ、動物病院が欲しい」
「なぜですか?」
「いい加減働きたいよ。知識の半減期は長くて3ヶ月程度と言われているし」
「動物病院じゃなきゃいけないんですが?」
「いけないとは言わないけど、やっぱり獣医やりたいよね。動物好きだもん」
「動物病院って、作るのにいくらくらいかかるんですか?」
「今頂いてるお小遣い100年分くらいかな」
「なるほどです。MIP先生の生活と警護者たちの人件費、防御施設等のメンテナンスと必要があれば開発、そういうことは緊急補正予算案で確保してあります。しかし今この上さらに動物病院という設備を作るほどは──」
「そう、そもそもこの街には動物病院を見たことないけど気のせいかな?アニマルウェルフェアの観点で、どう思う?」
「……わかりました、何とかします。何とかしますが、確認です。MIP先生は病院を所有することをお望みなのですか?それとも動物の診療をなさりたいということですか?」
「厳密には『動物病院が欲しい』は、適切な発言じゃなかった。動物の診察を、獣医療行為をしたい。よろしく頼むよ」
「話が整いました。無理矢理整えさせました」
「何をやったの?」
「この街に、王立わんにゃんパークが出来ます。附属動物病院では、民間の動物も診察します。MIP先生におかれましては、このパークで獣医療行為に当たって頂きたいと思います」
「そういう風に作っちゃうわけか、なるほど」
「病院を建てさせろというのはあまりにも個人的要求なので、無理です。でも王立公園の誘致ということであれば多少は無理を通せます」
「失礼ながら役人は怖いな……いつ頃できるの?」
「まだ着工すらしてないですし、さすがにすぐにというわけにはいきませんよ」
「まあそうだよね、仕方ないね。待つよ」
「お喜びください。建物は完成し、来月には稼働できるそうです」
「やっとだね、楽しみだよ。いろいろ任せっきりだったけど、何かやっておくべきことはあるかな?」
「詳しくは明日、MIP先生の他に地元警察署と特殊警護部、そして総務部にレクチャーします」
MIP、地元警察署長、特殊警護部長、総務部長を集め、友達が言う。
「では、来月開園予定の王立わんにゃんパークの人員配置について、ご説明したいと思います」
「まずは警察にお願いしたい部分です。飲食物の販売、チケットの販売と確認、飼育員の一部と内外の診療獣医師をお願いします」
「我々が診るのは警察犬ばかりでして、猫の経験がない獣医師が殆どですが?」
「猫につきましては、基本的にはMIP先生が対応しつつ、獣医師先生方にお伝えしていくという流れを想定しております」
「承知致しました、異論はありません」
「次に特殊警護部です。SPには、主に飼育員、清掃員、私服巡回警備員をお願いする予定です。」
「制服巡回警備はどうなるのです?」
「その点は、民間に業務を委託します。王立施設だからといって全てを内部で完結させるより、出来る範囲で外部委託などを進める方が運営面でもMIPカモフラージュ面でも都合が良いのです」
「最後に総務部ですが、経理や広報など、パークがパークとして存続するための事務仕事をお願いします」
「通常の公園の運営と考えてよろしいのですね?」
「はい、問題ございません」
「最後に、具体的な人事です。MIP先生は園長をやりたがらないだろうと仮定して現在は空席にしております」
「やらない!そんなの絶対やらない!わかってるじゃないか!」
「ということで、別途園長を設置する必要があります。これはご提案ですが、これは主に聖獣医騎士から公募してはいかがかと思います」
「そうだね、王宮獣医官としての働きを評価されて騎士の称号まで与えられてる連中にはピッタリだろう」
「かつての上司たちに対して何やら穏やかではないですね?」
「まあいろんなのがいたからね、思うところはあったよ。聖獣医騎士の他に、官民の大学獣医学大学院の先生方にも声をかけておいて。副園長は?」
「園長同様、空席になってますよ。ここには事務系のトップを考えておりましたが、もしMIP先生がやりた──」
「やらない!それも絶対やらない!事務系のトップ良いね!良いね!」
「ではそういう方向で進めさせていただきます」
「最後は、MIP先生の立ち位置です」
「診察中も常にSPの間に、みたいに、こないだ教わったやつの実践版?」
「いえ、それも大切ですが、そういう物理的な位置ではありません。MIP先生は、MIPであることはバレてないはずです。しかし獣医師先生方の間では雲の上のような有名人でもあります。末席で身を小さくして小声で『よろしくおねがいしまーす』なんて言ってたらおかしなことになります。ですから最低でも獣医師長、なんなら園長でもと考えておりましたが」
「嫌だよそんなの、絶対やだ」
「ダメです。絶対に何らかの役職に就いてもらいます」
「だいたいそんなの無理だよ、残念だけどそうはいかないよ」
「と言いますと?」
「そもそも王立わんにゃんパークに勤務するのは公務員だろう?」
「ええ、ですから……あっ!公務員ではないMIP先生は、そもそも役付きになろうはずもないと!」
「そういうこと。ということで、役職も肩書きも無い。フリーランスの獣医師ということでいいね?」
「くっ……」
そして、王立わんにゃんパークが稼働を始めた。MIPを始めとした獣医師たちの尽力により内部の衛生は保たれ飼養環境も整えられており、健康確認検査と出産、そして自然死の検案以外で園内の動物に獣医療を施すことは滅多にない。
獣医師たちは外部からの患者の診察と治療、患者の飼い主に対する飼養方法の指導、啓発を行う日々が続いている。
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