第2話 準備
おそらくMIPとして最初にして終の住処、設計が決まった。快適性だけを追い求めるならば王宮建築部設計課長に任せれば良い。特殊警備部長の意見を取り入れすぎると住居という名の監獄になる。住居の安全性という観点では工兵部築城課少佐の言う地下暮らしはもっともだが、ずっと地下にいるとビタミンD欠乏症になる恐れがある。
MIP護衛の基本原則である「怪しまれないこと」を最優先にした結果、次のような設計が提案された。
①傍目からは、二階建ての普通の家
②窓には防弾ガラスのみ使用
③地下には様々な設備を整えたシェルターを設置
④シェルターからは各軍施設への脱出経路を確保
⑤イージスシステム配備
要人課長、設計課長、特殊警備部長、築城課少佐がやって来て図面を広げた。
「うん、悪くなさそうだ。ありがとう、完成が楽しみだよ」
「部屋の間取りと致しましては、いわゆる3LDKになります。何度も作れる建造物ではございませんので広めに取りました。使わなければ使わないで問題ございません」
「もちろん警備に適した部屋となっております。どの部屋からでもシェルターに避難することが可能です」
「それで、建築場所なのですが、ここ、ここ、またはここをが候補に挙がっています」
「どこも荒野じゃん、周りにはペンペン草しかなさそうだよ」
「観測者から見て地平線は約5km、つまり5km以上先は地平線の彼方となって、見ることができません。半径5km以内に隠れる場所がないところとなると、この辺りしかないのです。従ってこの半径5kmを軍が確保致します。さらに距離によって変わってきますが、半径5km以上につきましても建築物の高さに制限をかけます。また、狙撃の世界記録は現在約2000mですので、こちらにつきましても十分な安全係数を──」
「ちょっと待って、狙撃手まで考慮するの?」
「この世界に狙撃手がいて狙撃銃が存在する以上はその対策を怠ることはありません」
「でも防弾ガラスなんでしょ?」
「防弾ガラスを過信してはなりません。化学的弾頭を用いてガラスを腐食させられては割られてしまいますし、ロケット弾を撃ち込まれてはひとたまりもありません」
「そのためのイージスシステムなんだね」
「はい」
「それで、どちらに致しましょう?」
「うん、どこもかわらなさそうだし、ここにするよ」
「承知致しました、すぐに建造に取り掛かります」
「待って、この家、荒野にポツンと建つの?むしろそれ怪しくない?『ポツンと一軒じゃ』とかいうテレビの取材でも来そうだよ?」
「木を隠すには森の中、家を隠すには街の中です。道路を引き、周囲に大量の家を建てて街を一つ作ります」
「──は?」
「MIP先生のお示ししたポイントに限らず、先程候補に挙げたポイントはいずれも複数の王立施設に比較的近いところにございます。先生のお住いの近くには大量の寮を建造し、学校を建て、商店などを誘致します。街の建造は、我々は門外漢ですので然るべき部署にて建造が進むことになります」
「商店などを誘致って言ったけど、そこに刺客が紛れている可能性は?」
「なんのかんのと理由をつけてSPを付けます。ただしこれは店員を守るためではなく店員を監視するためですが」
「公務員に刺客がいる可能性は?」
「そのようなことはあってはなりませんが、想定はしております」
「具体的には?」
「射殺許可が降りています」
「射殺?」
「射殺です。当然です」
「射殺したら事件として広まると思うけど」
「そこは問題ありません、予算は潤沢にございます」
「聞かなかったことにするよ」
特殊警備部長、事も無げに物騒なことを言う。射殺は射殺で物騒だし、やったらやったで潤沢な予算とやらで広報を買収するのだろう。とんでもないことになってきた。また、寮には兵士たちも住むことになるとのことだった。文民を装いつつ、何かがあった時には武装兵として戦力になるのだという。
総務部要人課長が言った。
「では、最後に友達を選んでいただきたいと思います」
「友達?」
「厳密には話し相手の他に身の回りのお世話をする者ですが、友達のように接していただければと思います。候補者は官民老若男女問わず募集しております」
「なるほどね。で、応募者はどこまで知らされてるの?まさかMIPの友達って募集じゃないよね?」
「さる要人の執事兼友人とだけお伝えしております」
応募者①
「いやー、面白そうで応募したんスよ。ま、よかったら仲良くやってこーぜ」
応募者②
「は、初めまして、若輩者ですが精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
応募者③
「それがし初めての経験なれど、全力を尽くす所存なり。よろしくお頼み申す」
応募者④
「──よろしくお願いします」
応募者⑤
「──オネシャス」
「ふう、ようやく面接も終わった」
「お疲れ様でございました。『この人だ!』という方は見つかりましたか?」
「うーん……これさ、応募者以外から選んでもいいの?」
「どなたかお心当たりでも?」
「要人課長、君に頼みたい」
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