第3話【そして僕は永遠にループする】

(よし、そろそろチュートリアルも終わるだろうからさっさとレベルを上げて仲間の募集をするかな)


 僕はチュートリアルの終わりが近づいていると感じて本編の進め方について考えていた。


『では、これでチュートリアルは終わらせて頂きます。最後までスキップなく受けてくれてありがとうございました。私、ミチビキはご主人のご厚意に厚く感謝をします』


(よしよし、最後の挨拶に入ったな。もう少しだ)


『最後にチュートリアルを最後までスキップ無しでこなされた方限定でプレゼントがありますので受け取ってくださいね』


 そう言ってミチビキが呼び指した先にはボタンが浮かび上がっていた。


「なになに、なんて書いてあるんだ?」


 僕はボタンに書かれている文字とその横にある説明文を読んだ。


 そこには……。


【チュートリアル完全クリア無料ガチャ】


【抽選内容:案内人による包容、案内人による握手、案内人による……。その数なんと9種類。各11%となっていた。そして最後にしれっと、伝説の武器1%と表示されていた】


「なんじゃこりゃあ!?」


 やり込みゲーマーとしてはズルいかもしれないがやはり「伝説の武器」が欲しい。

 チュートリアルをクリアするだけで手に入るかもしれないチート武器だ。

 インチキする訳では無いし運営が用意しているのだから運営公認のチート武器という事でリセマラしてでも取りに行くのがゲーマーの魂というものだ。


(チュートリアルが少し長いのがネックだけどミチビキさんは可愛いし、ガチャで外れても一時の夢はあるから当たるまでリセマラしてやる)


 そう誓った僕は当たるわけのないガチャを回した。


 ――キンッ!ビカーッ!!


 派手な演出が目の前で展開される。


(まあ、お約束の演出派手で当たらないやつですね)


 今まで他のゲームでのガチャ演出から、派手なものでも微レアしか出ない事など多々あり、僕は期待せずに何に確定するのかじっと待った。


 ――からんからんからん。


 突然、鐘ベルの音が鳴り響き目の前には一振りの剣が浮かんでいた。


(うわっ!?マジか。一発で引き当てたよ。1%だろ?強運すぎないか?)


『おめでとうございます。伝説の剣が当たりました。受け取られますか?』


「受け取られますか?とか当然だろ?それとも何かあるのか?」


 ミチビキの不自然な物言いに疑問を持った僕はミチビキに聞いてみた。


「この剣を受け取るとどうかなるのか?」


『いえ、その剣を一度受け取ると2度とチュートリアルを受ける事が出来なくなるだけです。つまり私とは2度と会えなくなるだけですので特に問題はありません』


「受け取らなければ?」


『剣を当てた方のみ『今回は受け取らない』選択が出来ます』


「それって何かプレイヤーに得はあるのか?」


『もう一度チュートリアルを受けてもらう必要はありますが、次に剣を引いたらもう一本プレゼントします。

 基本的にこの伝説の武器は不買品ですが2本目からは他のプレイヤーに売る事が出来ます』


「ちなみに魔法職のプレイヤーが剣を当てた場合は?」


『ご主人様が魔法職の場合は『伝説の杖』に自動的に変更されます』


(なるほど、ゲーマーとしては最低限1本は自分の武器として確保しておきたいし、複数本確保出来れば仲間に渡すことや売って資金にする事も出来るって訳か。

 それにしても1%か……また微妙な確率を設定してきたもんだな)


『それでご主人様は今回はどうされますか?』


 ミチビキが微笑みながら聞いてきたので僕は迷わず答えた。


「もちろん“今回は受け取らない”で!」


『ありがとうございます!!』


 ミチビキがそう言いながら僕に抱きついてきた。思わず体が硬直するがもちろんVRだ。


 そしてチュートリアルのクリア回数に1が付き、特殊武器個数にも1が付いた所でセーブされた。


 ◇◇◇


 セーブを確認した僕は一度ゲームの世界から現実の世界へと戻ってきた。


 時間を確認すると30分程経過していた。


 チュートリアルが濃密すぎて喉が乾いた僕は冷蔵庫から麦茶を出し、グイッとあおりながらふとゲーム掲示板を確認してみた。


 そこには早くレベルを上げて優位に立とうとするプレイヤー達がチュートリアルをキャンセルして進めたであろう情報が飛び交っていた。


[このゲーム操作がガチ難ムズだな]


[誰か魔法職は居ませんか?募集中]


[対人バトルしてたら横からモンスターが乱入してきたマジか!?]


 そんな事が上がる中、僕はある文章に目が止まった。


[チュートリアルに女の子がいただけで本編にはひとりの女の子も出て来ないんだな]


[分かんないぞ。何処かに隠れキャラで居るかもしれないぞ]


[ウサギを倒したら実はバニーのおねえさんだったとかか?馬鹿かお前は?]


(いや、確かにこのゲームは男性向けのコンセプトだったがNPCにも女性キャラが出ないとかやり過ぎじゃないか運営……)


 僕はそう思いながらその後何度もチュートリアルに挑んだが、2度目の剣を引き当てる事は無かった。


『――今回も残念ながら特別な景品は当たりませんでしたね。そろそろ冒険の旅に出られますか?それともまた私にお付き合いして貰えるのですか?』


 もう、何十回となく聞いたミチビキのセリフに躊躇ちゅうちょなく『再度チュートリアルを行う』を選択する僕は。


(このゲームのチュートリアルは、VRMMOSのRPGとしてじゃなく、独り者の男性向け癒しゲームとして別に売り出した方が運営儲かったんじゃないか?)


 と勝手な事を思いながら今日もチュートリアルのみループする僕だった。



ー 完 ー

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最新GAMESのチュートリアルがツボにハマりすぎて本編を始められない 夢幻の翼 @mugennotubasa

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