第2話【案内人は可愛いい女の子が定番】

『ようこそ、こちらはゲームを正しく楽しめるように皆様を導くチュートリアルとなっております。

 今からこのゲームのシステムについてご説明させて頂きます。

 あなたのチュートリアル担当になりました【ミチビキ】と申します。

 どうぞ宜しくお願いしますね』


 チュートリアルが開始されると、僕の目の前には20歳前後の猫耳カチューシャを着けた美人メイドがニコリと微笑みながら挨拶をしてきた。


(おお!?メイドさんだ!しかも猫耳カチューシャ付!これは萌える展開だ、運営も分かってるじゃないか)


 現在進行系で彼女などいない僕は彼女の仕草に『ドキリ』としながらも(なに、メイドカフェでもこのくらいのサービスはあるじゃないか)と彼女に対して動揺を表に出さないようにしながら話を進めた。


『まず、システムについてですが……』


 ゲームにおける肝であるシステムや操作性について次々に説明が続いた。


 体感時間で10分くらいあっただろうか、途中から説明を聞くのが面倒になってきた僕は視界の右手にある【説明をスキップする】のコマンドに触れようとした。


『まだ全部の説明が出来ておりませんが途中で終わっても宜しいのでしょうか?』


 ミチビキが涙目になりながら僕の手を握ると説明スキップの最終確認をしてきた。


『本当に宜しいのてすね?ああ、わたくしの説明が遅く伝わりにくかった為にご主人様を説明不足のままこの世界に送り出そうなんてなんと罪深い事をしてしまったのでしょう!』


 ミチビキはさらに悲観的な言葉を続けていく、その場に膝をついて崩れ去り下を向いたまま告げた。


『では、チュートリアルは中断ということで処理しておきます。但し、一度中断されたチュートリアルは再度受けることは出来ませんのでご了承ください』


 ミチビキの態度と言葉に精神的罪悪感にさいなまれた僕は中断のコマンドをキャンセルしてミチビキに告げた。


「分かったよ。最後まで聞くからそんなに落ち込まないでくれ。そのかわり有益な情報を頼むよ」


(もうこうなったらトコトン聞いてやるか。どうせチュートリアルなんて初めの一回した開かないんだからな。ミチビキも可愛いしな)


『ありがとうございます!精一杯サポートさせて頂きますので見捨てないでくださいね』


 ミチビキが満面の笑みで僕に抱きついてきた。


「!?」


 もちろんVRゲームなので抱きつかれた実際の感触はないのだが何故か体に電気が走ったような感覚に震えた。


(なんだこのゲームは?間違いなくVRMMOSだったはず。決してアダルティな恋愛シミュレーションゲームではなかったはずだ!?)


 僕はお礼を言って離れたミチビキを見ながら「このゲームの開発者は神だな」と本編をしてもいないのに神ゲー認定をしていた。


『ではご主人様。つぎに戦闘に関しての説明になりますが……』


(おお、そうだな。システム的なものは説明を受けたけど戦闘についてはまだ詳しく聞いて無かったか)


 そう言うとミチビキが僕に『申し訳ありませんが後ろを見て頂けませんか?』と指示をしてきたので素直に後ろにふり返ってみた。


(? 何もないな。てっきり敵でも居るのかと思ったんだけどな)


『もう宜しいですのでこちらを向いてくださいね』


 前からミチビキの声が聞こえてきたので僕は意味の分からないままそっちに目を向けた。そこにはメイド服から冒険者の装備に着替えたミチビキが笑顔で立っていた。


「いつの間に着替えたんだ?」


 僕はそう言った後でこれがゲームだった事を思い出し「ああ、ゲームだから装備の変更は一瞬だよな」と自分で納得した。


『では、これより模擬戦闘をしますので剣を構えてくださいね』


 ミチビキが剣を構えて攻撃の準備動作に入る。慌てた僕はいつの間にか右手に剣を持っている事に気がついて慌てて構えた。


(これでも戦闘ゲームはやり込んだ方だし、操作方法もさっき聞いて大体理解したからそれなりにはやれるはずだ。

 彼女に剣を向けるのは気が引けるかこれもチュートリアルのひとつだと思うので本気で行かせてもらおうかな)


 僕はミチビキの隙を見極めて防具のある胴を剣で水平に打った。


(貰った!)


 僕は勝ちを確信したと思ったが剣が当たったと思った瞬間ミチビキの体を剣がすり抜け、代わりに僕の胴に衝撃が走った。


(何だと!?くそー、運営を甘く見すぎたか、チート仕様だったようだな)


 チュートリアルのチート仕様とは、普通ならば楽勝に勝てる相手なのにイベント仕様で無敵になるか体力が無限になるなど、絶対に勝てない仕様の事である。


 バシッ!!ドガッ!!


 ミチビキに胴を打たれ壁まで跳ばされた僕は、無残にもその場に倒れ気を失った。


 ――その後、気がついた僕は目の前に心配そうな顔をしたミチビキがいる事に気がついた。


「ここは……?」


 僕は記憶を辿るが模擬戦闘でチートなミチビキに叩きのめされて気を失ったらしいとしか分からなかった。


『大丈夫ですか?もう少し手加減をすれば良かったのですが、あなたの剣が普通ではない鋭さを持っていたのでつい本気になってしまいました。ごめんなさい』


 そう言うミチビキを見上げるように床に寝かされた状態で膝まくらをされていた僕はその事実に頭が真っ白になり顔を真っ赤にしながら飛び退いた。

 いつの間にかミチビキはまたメイド服に着替えていたので気恥ずかしさから僕はミチビキをまともに姿を直視出来なかった。


 もちろんVRなので感触や体温などある訳無かったが女性に免疫の無い者には殺人的な行為だった。


『あらあら、もう大丈夫なのですか?では、戦闘に関するご主人様の総評を申し上げますわ』


 ミチビキが微笑みながら訓練の総評を表示させていく。


『剣技10、体術8、防御5、体力8、戦術10となりました。

 防御面が少し弱い傾向ですが十分に前線で活躍出来る剣士としての素養があります』


(やはり剣士タイプに分類されたか。まあ初期パラの振り方もそうなるように調整したからな。やっぱり男ならば前線を張れる剣士だよな)


 僕が訓練の結果に満足しているとミチビキが次の説明に進んだ。


『では次に魔法の使い方の実績訓練をします。準備はいいですか?』


「いや、準備と言われても魔法のパラには全くステータスを振ってないから魔法は使えない……ぐわっ!?熱い!?」


 魔法は使えないと言っているのにミチビキは容赦なく4属性の魔法を放ってくる。


 炎、水、風、地、それぞれの初期魔法だったが魔法のパラに加えて魔法防御パラもほとんど入れていなかった僕は簡単にボコボコにされた。


 そして、模擬戦闘(剣技)に続いて魔法でもやはり吹き飛ばされて気を失った。


 ーーーそして、またミチビキの膝まくらで目を覚ました。2度目ということもあり、びっくりして飛び退くといった事は無かったがやはり何度体験しても慣れる事は無かった。


「何度もすみません。魔法戦闘の総評をお願いします」


 ミチビキは僕が落ち着くまで待っていたらしく、ニコニコと笑顔を振りまきながら総評を表示してくれた。


『魔法適正0、魔法防御2、魔法回避5、よってご主人様は魔法の素養はほぼ皆無となります。せめてもう少し魔法防御を上げて頂けるとより戦闘が楽になりますよ』


 ミチビキが的確な総評を伝えてくる。


(まあ、分かっていた事だし仕方ないだろう。得てしてこういった対人ゲームは何でもかんでも出来るようにパラを振り分けると器用貧乏になって結局のところ何も出来なくてパーティーから不必要認定されるのがオチなんだよな)


 僕は今までのゲームでも大抵は斬込み特攻隊長役を担ってきていた経験が多かったのでこの結果は初期のパラ分けとしては満足していた。

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