7話

 資料を作り終え、大家さんからいつか貰ったお茶のパックを取り出し、薬缶からの沸騰の合図を待つ。そうして一段落した折、机の上に置いた小説が目に付く。

 起承転結の起が終わり山場の手前であろう所で読み終えたものだから、自分自身からの不評を買っても読みたくなるものだ。

 悪印象を持ちながらも小説を読んだが、そもそも俺が気に入っている作者ということもありやはり面白い物だった。何より山場に入らずその手前を引っ張りながらも中だるみせず読み続けられた所は称賛せざるを得ない。何よりさっき淹れたと思っていた冷えたお茶と午後を過ぎたと鳴いて訴える腹時計が俺の感動を物語っている。

 今日の昼飯がおかずだけだと決定したのに、今だ満足感が続いている。

 冷蔵庫から取り出した昼飯のおかずで小腹を満たし、黄昏ながら午後の予定を考える。

 友達を遊びに誘うにも中途半端な時間で、かと言って家での娯楽は限られる。

 中々考えが纏まらず部屋を巡回する。そうこうしていたら足に何かが当たりそのまま足蹴にしてしまう。

 「うお!」

 思わず声を上げ、大袈裟に反応する。転げそうな体を立て直し、俺を転ばせようとした犯人へ目をやる。そこには花図鑑と書かれた本があった。

 そういえば小説と一緒に机へ置いていた、それが何かの拍子に落ちたのだろうと推測した。

 どうやら真犯人は俺のがさつさらしい。

 花図鑑からさっき足蹴にした時に付いたゴミを手で払う。

 昨日も今日も小説に気を取られて封を切る事すら忘れていたが、家庭教師として生徒の好みを把握しておきたいし、気になってはいた。と言うのは半分建前で目の前の図鑑に知識欲を掻き立てられたのだ。

 午後の予定が決まり、冷えたお茶を温め直し冷蔵庫からお菓子のキノコチョコを取り出す。タケノコよりキノコの方が美味しいしね。

 花図鑑の内容はかなり詳しく書かれており値段や厚さ相応と言った所だろう。そんな図鑑をぬるいままのお茶とキノコチョコを片手で飲み食いしながら読み進めていく。

 毒のある植物はLD50、半数致死量まで書かれており他にも繁殖の仕方や主な分布地などかなり詳しく書かれている。それこそ一つの植物に一、二ページ使っている。

 花図鑑てか植物全集なんじゃないか、と心の中でツッコミを入れながらも、知識欲は加速していく。

 4分の1まで読み満足した俺は棚から漫画を取り出す。

 家でダラダラするのもたまにはいいな、明日は友達でも遊びに誘うか。

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