5話

 螺旋状に配置されているエスカレーターで一階まで下る。その間にも先程と同じくはしゃぐ子どもの姿があった。

 一階にはスーパーマーケットがあり買い物の度利用している。ここに来た理由はそれだ。

 そして苦学生の味方、パスタや豆腐や挽肉などを買い込む。その中には甘美の誘惑に釣られて買ったお菓子が入っている。そんなビニール袋をぶら下げ帰路に着く。

 腕時計を見ると14:30と針が指していた。

 夕方頃には料理を終えて食べれるだろうし資料の確認と調整ができるな、と考えながら橋を渡る。その最中で後ろから押され体が倒れ掛かり、ビニール袋は一瞬空を舞う。

 「やーいやーい」

 「待てー!」

 犯人である子どもは謝るどころか気にしすらしていない。

 ぶつかった位でいちいち怒っていられないし、何より走って追いかけるのは面倒だ。

 などと思っていたが、買った物の中には卵が入っているのを思い出しビニール袋を確認する。パックの中の卵は殆どが無事であったが、2つの卵に亀裂が入っていた。

 「…はぁ」とため息を吐き、手帳に書いてある献立を卵料理に変える。

 その後は道中にいる子ども達を避け、アパートに到着した。横切るバイクもその様だ。

 「ようこさん、こんにちは」

 ネイキッドのバイクに跨る大家さんに挨拶をすると、大家さんはフルフェイスのヘルメットを外す。

 「あら、志悠さんこんにちは、買い物行って来た所?」

 「はい、と言っても小説を買ったついでですが。ようこさんはどちらへ行ってきたんですか?」

 「友達と苺狩りに行って来たのよ、甘くて美味しかったわ」

 と言ってリアボックスからビニール袋を取り出し、俺に差し出してくる。

 「苺狩りに行って来たお土産、松崎さんと長尾さんに配って頂戴。1つ多めに入れてるから、要らなかったら誰かにあげて」

 ビニール袋の中には四つのパックがあり、どれも大きい苺が詰まっていた。

 「ありがとうございます」

 「新鮮なうちに配りな」

 はいと相槌を打ち、大家さんがバイクを小さな車庫に運ぶ姿を見届けながら2階へ続く階段を上る。

 松崎と書かれた表札の下、少し古ぼけたインターホンを軋む音と共に押し込む。

 「はーい」

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