2話
腕時計に目を落とすと8:49と針が示す。余裕のある時間に安堵し、襟と息を正しインターホンを押す。
「はい、どちら様で?」
インターホンからは無意識の予想よりも早くに呼応した。
「神代塾から来ました、今回家庭教師をさせて頂く寺田志悠です」
玄関が開き依頼者の声が迎えてくれる。
「すみません、急なお呼び出しで」
「いえ、依頼して頂いただけでも光栄です」
適度な挨拶を交わし、家へと足を運ぶ。どうやら依頼者の名前は山本愛子さんで、授業を受ける娘さんの名前は美樹ちゃんのようだ。
玄関やリビングに続く廊下は質素ながらも気品のあり、一目見ただけでも生活に苦労していない事が分かる。ゴマすりして損はないか、と狡い考えを巡らせていた。
2階へと案内され、愛子さんは『美樹』と書かれた扉に向3度のノックと声を掛け、扉を開く。
「家庭教師に来てくれた寺田志悠先生よ」
「おはようございます、今回家庭教師をさせて頂く寺田志悠です」
「おはようございます、山本美樹です」
親に似たのか声からして気品が有る。
「はい、よろしくお願いします」
美樹ちゃんと互いに会釈する。
「娘は体が弱いので余り無茶はさせないで下さい、それと体調が悪くなったら直ぐ私に連絡して下さい、お願いします」
「はい、お任せください」
俺は電話番号の書かれた紙を受け取り、会釈を交わして愛子さんは1階へと下って行った。
美樹ちゃんと2人になり、美樹ちゃんの居る勉強机に近づく。
「美樹ちゃんは中学3年生であってるよね?」
「はい、あまり学校に行けていませんが」
「体が弱いって聞いたけど原因はそれなの?あとこの椅子借りるよ」
「どうぞ」
美樹ちゃんの座る椅子と同じ高さの椅子を引き寄せて座る。
「生まれつき体が弱くて小学校も休みがちでした、何時もはお母さんが教えてくれいたんですが最近は忙しいようで家庭教師を依頼したのだと思います」
「良いお母さんだね」
「もっと休んで欲しいのですが」
他愛もない会話をして美樹ちゃんの緊張も解れてきたようで鞄から3年生用の資料を広げる。
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