第13話 転校生の才能

土曜日の朝、午前10時。

駅での待ち合わせは10時半なので、余裕を持ってこの時間の待ち合わせにした。


「おはよ、冬雪くん」

「おはよう」


白のブラウスにジーパンというシンプルな格好ではあるが、秋穂の実年齢のせいで大人っぽく見える。

こっちは遥輝とゲーセンに行くだけなので、無地の黒Tシャツにベージュのチノパン。

正直オシャレのオの字もない。


「似合ってるね」

「ちょっとディスってねえか」

「冬雪くんにはシンプルなのが似合うよ。変にゴチャゴチャしてるのよりかはね」

「あっそう」


自転車に跨って走り出すと、秋穂が後ろをついてくる。

はぐれていないかチラチラと後ろを伺いつつ、駅への道を向かう。

一本道をそれて、スーパーの駐輪場に入る。


「ここに止める方が安いんだよ」

「そうなの? いいの?」

「相当スペースあるから、満車どころか半分も埋まらない。本当はダメだけどな。一親ちゃんと使わせてもらった時は帰りに買い物して帰る」

「じゃ、一緒に買い物しよっか」

「ん」


少し歩いて駅前広場に着くと、すでに遥輝と絢は待ち合わせ場所に到着していた。


「はよっす」

「おはよ〜」

「おはようございます」

「おはよう。じゃあ俺と遥輝はゲーセン行くから」

「は〜い。秋穂、行こっ」

「はい。では、また後で」


遥輝とゲーセンに入って真っ先に向かうのは、所謂音ゲーと呼ばれるもの。

自前のヘッドホンを筐体に挿して、恐ろしい速さで遥輝はリズムに合わせて腕を動かす。


「よくやるよなあ、これ」


俺はここまでハイレベルなことはできないので、初心者向けの譜面で好きな曲で楽しむ。

一度遥輝と同じ難易度でやってみたが、頭がついていけなかった。

楽器を弾くのとはわけが違う。


「じゃ、俺適当に回っとくわ」


1クレジットだけ付き合って、あとは自由行動。

コインタワーを崩すゲームが個人的に好きなのだが、今日はそんなに積まれていないのでパス。

預けているメダルはそこそこあるので、競馬ゲームで小額ずつ賭けて時間を潰すことにした。


「どれにすっかなあ」


オッズとか予想印とかは正直何もわからないので、名前がピンと来た馬の複勝に賭ける。

3位までに入ればいいし、リターンは少ないが十分楽しい。





「ぜんっっっっっっぜん、当たんねえ」


何番人気に賭けようが、外す。

途中から2頭や3頭に賭けてみたのだが、全員3着までに入らない。

逆にすごいんじゃないだろうか。


「どうよ、調子は」

「すかんぴん。無理」


すっからかんになったコイン用カップを見せると、遥輝は苦笑いを見せた。


「昼食って、バッセン行くか」

「行くわ」


軽く昼食を済ませた後、俺はストレスをバットに込めてボールを叩いた。

ホームランは出なかったものの、いい当たり自体は出たので満足した。

遥輝は普通にホームラン級の当たりをバカスカ飛ばしているので、やっぱりこいつはすげえなと思う。

なんで映研なんかを選んだのか疑問に思うほどだ。


「やっほ」


いつの間にか、絢がケージの後ろにいた。

隣には秋穂もいる。


「買い物はもういいのかよ」

「うん。見るだけで終わっちゃった」

「そうか。絢も打ってくか?」

「無理だよ、運動音痴だもん。秋穂とかはどう?」

「そんなに自信はありませんが……」


そんなことを言いながらも打席に立つ秋穂。

ちょっと球速は速めの設定だし、女子には流石に――



カキーン。



――え?


「「え?」」


1球目から、ホームラン。


その後もいい当たりを飛ばし続けた秋穂は、結局ホームラン賞をごっそりと持ち帰るのであった。

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