第12話 転校生の弁解術
「秋穂って、週末とか何して過ごすタイプ?」
金曜日の昼、秋穂が転校してきてはじめての週末を迎えるまであと12時間を切った頃。
絢が、秋穂に問いかけた。
なんとなく酒を飲んで家で映画でも見ながらダラダラ過ごしそうなイメージだったが、秋穂の返答は俺の予想とは異なる物だった。
「お休みの日は外をぶらぶら散歩したり、お洋服を買いに行ったりですね。外で過ごすことが多いです」
「へー! じゃあさ、明日ヒマなら一緒にどこか行こうよ!」
「いいんですか? 是非一緒に行きたいです!」
女子ふたりがわいきゃい週末の予定を立て始めるのを横目に、俺と遥輝は静かに弁当を食べる。
2/3くらいを食べ終わったところで、遥輝がスマホを取り出した。
何か文字を打つような動きの後、俺のスマホが震えた。
通知の中に、遥輝からのLINEが1件。
【冬雪って明日ヒマだよな】
【ヒマだな】
【ゲーセン行こうぜ】
【OK】
遥輝は、本人曰く昔からゲーセンで遊ぶのが好きだとのこと。
ただし、大抵絢に誘われるせいで全然行けていない。
そのため、絢に予定がある週末はこうして俺を誘ってくる。
【でもさ、LINEじゃなくてよくね?】
【久々に行きたすぎて絢に週末冬雪と予定あるって言っちゃったんだよ。ここで口頭で誘ったら変だろ】
【大変だな、そっちも】
遥輝と顔を見合わせて、お互い苦笑いをする。
モテるってのも、大変だな。
「遥輝、遥輝ー?」
ぽんぽん、と絢が遥輝の肩を叩く。
遥輝はビクッと飛び上がった後、まるで浮気をしている彼氏のようなスマホの隠し方をした。
「お、おう」
「そんなびっくりしなくても。明日、駅まで一緒に行こ?」
「あ、ああ、いいよ」
「遥輝くんも一緒なんですか?」
「遥輝は冬雪と遊びに行くんだって。だから駅に着いたら解散」
「そうなんですね。じゃあ冬雪くん、私たちも駅まで一緒に行きませんか?」
「え、なんで?」
「あまり駅までの道に詳しくないので、案内してほしいです」
「スマホ見ろよ」
「いいじゃないですか。一緒に行きましょうよ、ねえ」
「なんで駄々こねるんだよ、そこで」
ため息をついて秋穂から目を逸らすと、絢がムカつくくらいのニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「なんだよ」
「べっつにー? 冬雪は秋穂と一緒がそんなに嫌なんだなって思っただけ」
「冬雪くん、私と一緒に行くの、嫌なんですか?」
「いっ、その、嫌ってわけじゃ……」
「じゃあ、お願い!」
ぱんっ、と秋穂は目の前で手を合わせて、頭を下げた。
絢に加わって、遥輝もムカつくニヤニヤ笑いをし始めた。
「あーもう、わかったよ!」
しっしっ、と秋穂を振り払う仕草をして、俺は弁当の残りを食べ始めた。
「冬雪も素直じゃないなあ」
「ねー。面倒くさい男は嫌われるぞー?」
幼馴染ふたりがシンクロニシティを感じているのが、俺の食べるスピードを速めた。
面倒くさいのはどっちだよ、ちくしょう。
「じゃ、明日お願いしますね」
秋穂と駅まで行く約束の話はそこで終わり、他の話題に転換した。
しかし、しばらくして、遥輝の頭に浮かんだ疑問が俺を凍らせる。
「……あれ?」
「どしたの、遥輝?」
「さっきから妙に引っかかるなと思ってたんだけどさ……一緒に行くっつったって、結局どっかで待ち合わせなきゃいけないんじゃないの? その打ち合わせ、しなくていいのか?」
「家まで迎えに行くとかじゃないの?」
「それは俺らみたいに家が隣とか、せめて近所の場合だろ」
しまった。
帰る方向が同じであるという情報以外はふたりに開示していないのを忘れていた。
「いつも帰り道が分かれるところまで行けばいいと思ってたんですけど、冬雪くんもそうじゃなかったんですか?」
秋穂は、特に表情を変えずにそう言った。
俺にはきちんと「家の前」と伝わるように、なおかつふたりにはぼかした言い回し。
こやつ、やりおる。
「あ、ああ、俺もそのつもりだったし、後でLINEして決めようかなって」
「なるほどね。なんか、出会って1週間にしては色々通じ合ってんな、冬雪と秋穂って」
「確かに」
疑問が解けたのと引き換えに、ふたりのニヤニヤ笑いは復活した。
窮地を脱出できたらできたで、結局これかよ。
秋穂の方をちらりと見ると、満更でもない様子で微笑んでいた。
秋穂と似たもの同士なのは俺も嬉しくないわけではないが、そういう顔をすると勘違いされるからやめてほしい。
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