第11話 転校生と似たもの同士
「楽しかった〜」
誕生日パーティーを終えて帰宅した俺に了解を取らず、秋穂は家に上がりこんで椅子の上でぷらぷらと足を揺らしている。
何故ナチュラルに上がりこんでくるのかとツッコミを入れようとしたのだが、それは冒頭のセリフで遮られてしまった。
「で、冬雪くん。なんで黙ってたの?」
口元にっこりと微笑んでいる秋穂だが、その目はあまり笑っていない。
遥輝や絢の口からではなく、俺の口から直接聞きたいのだろう。
「……褒められるの、苦手なんだよ。あそこで名乗り出るの、照れ臭いだろ」
「本当に? 何か隠してるとかじゃなくて?」
「もう今曝け出しただろ。ひねくれ者の天邪鬼なんだよ、俺」
「素直じゃないなあとは薄々感じてたけど、ここまでだったとは思わなかったよ」
口を尖らせてはいるが、さっきと違って秋穂の目はどことなく嬉しげだ。
何がそうさせたのかはわからないけれど、機嫌が治ったのならよしとしよう。
「うっせ。悪かったな」
「男の子だもんね」
「なんかムカつくな、大人ぶりやがって」
「お姉さんだからね、私」
いたずらっぽく目を細めて、軽く傾げた頭を片手の頬杖で支える秋穂は、本当に大人のお姉さんであるように感じられた。
実際そうなんだけど、同級生をそういう目で見るのは不思議な感覚だ。
今なら、俺の疑問にも答えてくれそうな気がする。
「あのさ、ひとつ聞いていい?」
「うん? なあに?」
「さっきさ、なんで食べてる時黙ってたんだ? やっぱり口に合わなかったか?」
「ううん、すごく美味しかったよ。でも私――」
「会話しながらだと味を感じない、か?」
秋穂が、細めていた目を一気に開いた。
やはり、そうだったか。
「なんで、わかったの?」
「俺もだからだよ」
「でも、こないだ私と喋りながらお蕎麦食べてたし、お昼だってお弁当食べながら喋ってるじゃない」
「弁当は腹が満たせりゃそれでいいからな。こないだの蕎麦だって、口に物入ってる時は喋ってなかったろ」
「……なんか、言われてみればそうだったかも」
「そっちこそ、酒飲みながら普通に喋ってたから、ケーキ食べてた時に黙ってたのは意外だった」
「お酒は美味しくなくても飲めればそれでいいし、お蕎麦の方は会ったばかりの冬雪くん相手に黙るわけにはいかなかったし。でも、ケーキは本当に美味しくて黙っちゃった」
「そうだったのか。悪かったな」
「ううん、むしろ嬉しいの。私、このせいでみんなで集まる時とか疎外感感じちゃってたんだよ。でも、冬雪くんがいればこの先も大丈夫。なんとなく冬雪くんに安心感があったのは、似たもの同士だったからかもね」
秋穂が背もたれに体重をあずけて、大きく背伸びをした。
それに伴い、彼女の女性的な2か所の部分が強調される。
思わず目をやってしまった自分を戒めるため、首を振る。
「さ、帰った、帰った。晩飯はさっきケーキ食ったから用意しねえぞ」
「えー、冬雪くんの手料理食べたかったのに」
「はなから期待してなかっただろ。じゃ、また明日な」
「うん、また明日」
秋穂が席を立ち、隣の家に帰っていく。
玄関まで見送り、パタン、と扉の閉まる音がしてから30秒待って、鍵をかけた。
普通は出て行ってすぐ鍵を閉めるものだが、それをしてしまうと秋穂に対して拒絶の意思を示したと思われてしまうかもしれない、と
思った。
いや、何考えてるんだ、俺は。
思い上がっちゃいけない。
頭をガリガリと掻きむしって、リビングに戻る。
見慣れたはずの俺ひとりしかいないリビングが、なんだかやけに広く感じられた。
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