第9話 転校生の3年遅れの誕生日祝い

翌日の昼休み、秋穂は映研への入部届を提出した。

担任の織田先生が顧問であることも幸いして、手続きはスムーズに済んだようだ。


「ねえねえ、LINE教えてよ。映研のグループ招待するからさ」

「ありがとうございます。えっと、QR表示すればいいですか?」

「うん」


ささっ、と絢が秋穂と連絡先を交換し、間もなくして秋穂が映研のグループに加入した。


【よろしくお願いします】


秋穂の一言に、俺たち3人を含む6人全員がそれぞれの「よろしく!」の意を示すスタンプを送信した。


「俺も友達追加しておいたから、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


遥輝も、秋穂に友達の申請を送っていたようだ。


「冬雪も送っといたら?」

「後で送っとくわ」


嘘である。

とっくに友達登録は済んでいる。


「めんどくさがりだなあ、冬雪は。あ、そういえば、秋穂って誕生日いつなの?」


絢の問いかけに、秋穂は気まずそうな顔をする。

それもそうだ。だって、誕生日は一昨日なんだから。


「その……一昨日、なんです」

「えっ?」

「転校したその日が、誕生日で」

「えーっ! 教えてよ!」

「だって、なんだか『祝ってくれ』みたいな感じじゃないですか」

「全然いいよ、そんなこと! ていうか、秋生まれじゃないんだ?」

「ええ。変な話ですよね、秋穂なのに春生まれって」

「なんで秋穂って名前になったの?」

「そういえば、聞いたことないですね。今度母か父に聞いておきます」

「うん、楽しみに待ってるねー」


うまいこと話題を終わらせたな、と感心する。

今までも、こういうことがあったのだろうか。

春生まれなのに「秋穂」か。

確かに、俺も気になる。

ふたりきりになった時にでも聞いてみよう。


「遥輝、冬雪、誕生日パーティーしようよ。映研で」

「いいな、それ。数日遅れなんて誤差だよ、誤差」

「ええっと、新入部員の私にそこまでして下さらなくても」

「じゃあ、歓迎会のついでってことでどう?」

「はあ……」


渋る秋穂を、遥輝と絢が訝しげに見つめる。

あまり詮索されないように、こういう時に助け船を出すのが共犯者ってもんだ。


「まあまあ、いいじゃねえか。そんなに誕生日会嫌がる理由もないだろ」

「そうですけど、本当にいいんですか?」

「もち!」

「当たり前よ」


遥輝と絢が、満面の笑みでサムズアップをした。


「では、お言葉に甘えて。楽しみにしていますね」


ふわり、と秋穂が笑った。

なんだかんだでこういうものを開催されること自体は、嫌いじゃないらしい。


「じゃ、決まりだな。準備は遥輝と絢に任せていいか?」

「おっけー!」

「任せろ」


2人がLINEを打ち始めた。

同時に、映研のグループLINEからポコポコと通知が来る。

小瀬先輩と西口先輩とキャシーに、誕生日パーティー兼歓迎会の開催が知らされ、キャシーがハイテンションで乗っかってくる。


「……すごい」

「思い立ったらすぐやるタイプだからな、このふたり。ま、じきに慣れるさ」

「そうなんですね」


机の上で、スマホがブルブルと震え続ける。

俺は、スマホをおやすみモードにして、弁当の残りをかき込んだ。







「……で、なんでもうケーキがあるんですか?」

「コネ♪」


放課後に部室に行くと、すでにパーティーグッズとケーキが用意されていた。

絢のツテで、ケーキ屋さんに届けてもらったらしい。

ケーキ屋さんには迷惑な話だと思うが、それが許されるくらいのコネや人徳が絢にはあるのだろう。

ケーキの上に立てられている17本のロウソクに、絢が火をつけていく。

それを眺める秋穂は、ちょっと複雑そうに微笑んでいた。

そらそうだ。3本足りないんだから。


「じゃあ、電気消すね~」


パチン、と電気が消されて、絢の合図で皆が歌い始める。


ハッピーバースデー、トゥーユー。

ハッピーバースデー、トゥーユー。

ハッピーバースデー、ディア秋穂。

ハッピーバースデー、トゥーユー。


秋穂が何度も息を吹きかけて17本のロウソク全てを消し終えると、6人分の拍手の音が秋穂を包んだ。


「ありがとうございます」


3年遅れの17歳のお祝い。

秋穂にとって、それはどんな意味を持つのだろうか。

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