第6話 転校生の入部

放課後、俺と遥輝と絢は、秋穂を連れて映研に向かう。

部室を開けると、転校生を一目見ようと1年生から3年生まで部員が勢揃いしていた。

といっても、3年生は2人だけ、1年生も1人だけなので、俺たちを合わせても現在部員は6人なのだが。


「東さん。ようこそ、映像研究部へ。部長の小瀬おぜ優香ゆうかよ」


黒髪を腰まで下ろした、立てば芍薬座れば以下略を体現したかのような美人。

これが、うちの部長の、小瀬優香。


「よ、よろしくお願いします」


秋穂も、年下とはいえ小瀬先輩には気圧されているようだ。

実際、小さな劇団で舞台役者もしているらしい。


「副部長の西口にしぐち秀章ひであきです。よろしくね、東さん」

「よろしくお願いします」


普段は前髪を目が隠れるくらいまで下ろし、その上眼鏡をかけているせいで地味男子に見えるが、ひとたび髪をセットして役者モードに入れば時には小瀬先輩よりいい役者になるのが、この西口先輩。


「1年生のキャサリン・ミハル・オブライエンです。金髪で目も青いけど、日本生まれ日本育ちです! ミドルネームのミハルでも、ファーストネームのキャサリンでも、どっちでも呼んでください! あ、キャサリンよりはキャシーの方が嬉しいです!」

「びっくりしました、日本語ペラペラなんですね」

「お父さんがアイルランド人なので、見た目の遺伝はほぼほぼお父さんから受け継ぎましたね。ちなみに英語はからっきしでーす!」


くすくす、と秋穂は笑った。

キャシーは、鉄板ネタがウケたことに満足したようだ。

ちなみに、キャシーの英語が壊滅的なのは本当で、絢ですら回避できる小テストで追試を食らったレベルだ。


「さてと、機材紹介してもいいのだけど……それより、去年の文化祭で撮った映画を東さんに見てもらう方がいいわね。駒鳥くん、お願いできるかしら?」

「了解でーす」


部室の窓、ドアの小窓を黒いカーテンで覆い、俺はDVDと映写機の準備をする。

秋穂には、特等席が用意された。

上映するのは、去年俺たちが撮った映画、『空色キャンバス』だ。

ここにいる7人から秋穂とキャシーを除いた5人だけで撮影した作品だが、案外好評だった。

いわゆる恋愛映画で、主人公は小瀬先輩演じる百瀬ももせ香澄かすみ

ただ、小瀬先輩と恋に落ちるのは絢が演じる皆本みなもととおる

物語の途中で明かされる透の男装の事実や、同性愛をどう受け入れていくかなど、けっこうシリアスな内容である。

ちなみに、俺は絢の友人の福永ふくながゆたか役。

男装を知っていながら黙っている立場で、透に長らく片思いを続けていたが、最後には透にフラれる。

元々は遥輝がその役の予定で、俺は小瀬先輩の弟役だったのだが、絢が「演技でも遥輝をフるのは嫌だ」と西口先輩に直訴し、遥輝と俺の役が入れ替わった。

改めて見ると、ここはこうした方が良かったかな、と自分の演技に疑問符がついたり、ここのBGMはもうちょっと何かあったな、という映像編集担当の1人としての反省点が出てくる。

およそ2時間の上映が終わり、電気をつけると、秋穂は号泣していた。


「あ、東さん!? ごめんなさい、自分の演技の反省点に集中しすぎて、全然気付かなくて……西口くん、ティッシュはあるかしら?」

「もう俺が箱で渡してるよ。全く、部長なんだからちゃんと新入部員候補に気遣いしないと。東さん、大丈夫?」

「ぐすっ、はぃ、すごく、よかったです、ぐすっ」

「ここまで泣いて貰えると撮った甲斐があるってもんだね」

「私も、観るの2度目ですけど泣きそうになっちゃいました。見学に来たらこれを見せられて、私は入部を決めたんですよ」

「ぐすっ、うん、キャシーさんの言ってること、すごく、わかるっ」

「よしよし。それじゃあ秋穂、入部してくれるかなー?」

「ぐすっ、いいともぉ」

「おい、半ば強制的に言わせただろ」


後で帰宅途中に本当に入部するか確認したところ、ちゃんと入部してくれるということだった。


我らが映像研究部の部員が、7人に増えた。


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