第14話 雷精霊を使役する者の心得
「これの体力は雷膜内に蓄えられた電気の量に依存しているの。つまり、電気を与えれば無限に戦えるってわけ。対してあなた達の頼りの綱である土精は、土を操作する、維持するだけで体力を消耗する。消耗して消耗して、完全に回復するのは明後日ってとこかしら? フヒヒ。どんなに頑丈な体をしていても、無限には適わないのよ?」
そんな戦い方って、滅茶苦茶だ。
――許せない。雷精のことを本当に道具としか認識していないんだ。
狂ったようにぶつかって、電池から電気を得て回復し、また狂う。彼女が彼女なら、その彼女に良いように使われている雷精も狂気の沙汰だ。
「無限って言うけど、電池の数には限りがあるだろ!」
賢治がどぎつく指摘した。
「ええそうね。だからこれは持久戦。あなたの土精の我慢強さと、私のこれを使役する者としての心得、どっちが競り勝つかのチキンレースよ」
アースちゃんの核のある部分が執拗な攻撃を受けて、大きな亀裂を生じさる。
全快であればすぐに直せる亀裂なのだろうけど、一向に修復される兆しはない。それどころか、衝撃と共に亀裂の数が増えていっている。
このままではアースちゃんが! 思うが早いか、私の体は動いていた。
咄嗟にアースちゃんに駆け出す――私の行く手を妨げるように、先に賢治が前を行った。
「勝手にチキンレースにしてんじゃねぇぞ! こちとら三対二だ!」
賢治はいつの間にか手にしていた自身の靴で、飛来する雷精を叩き返す。捨て身の援護攻撃だ。
バチン!
叩けはしたが、雷撃の反動を受けて賢治の体は軽く吹き飛んだ。
雷撃を生身の体でも受けたらしい賢治は、焦げ目のついたアウターレイヤーで立ち上がる。
そして、手にした靴を翳して身構える。何度でも叩き返してやるぞ、という気迫が篭っている。
この短い間にアースちゃんは体を修復させていく。
――そっか、アースちゃんを一番に考えているのは飼い主である賢治なんだ。私が出張る隙なんてないんだ……。
賢治とアースちゃんを見ていると、たまらなくスーの存在が恋しくなる。
もしあの時私を守ってくれた水精が賢治の言う通りスーだったのなら、私はとても酷い仕打ちをスーにしてしまったことになる。
命懸けで私を守ってくれたのに、私はそれをスーとして認識してあげることすらしてあげてない。しかも、現在進行形でそうだ。罪深いなんてものじゃない。
スーは弱い存在だって、勝手にそう思い込んでいた。
確証なんてどこにもないのに。
いつも小さくて可愛らしかったから? ……それは私がスーに望んだ姿でしかない。
スーは、私や母やお婆ちゃんの求める存在にあえて収まっていただけなのだとしたら。
小さくて可愛いと思っていたアースちゃんが、今こうして大きな体で戦っているように、スーだってきっと本当は――
「うおおぉぉぉぉぉぉーー!!」
賢治が女性に向かって雄叫びをあげながら突っ込んでいく。まさしく我武者羅だった。
電池による補充さえ断てれば、形勢は逆転する。
おそらくそういう魂胆だ。
だけどそのためには、見過ごしてくれないだろう雷精の存在が気に掛かる。
「賢治危ない!」
雷精はやはり女性を守ろうと、賢治に標的を移した。
シュ! という乾いた音が空間を切り裂く。
アースちゃんの体の一部が雷精目掛けて飛んでいく――石弾ならぬ土弾だ。
二発発射され、惜しくも両方とも回避され遠くの地面に果てる。
当たりはしなかったけど、雷精に回避行動を取らせただけも充分な意味がある。
「捕まえたぞ……」
賢治の右手が女性の二の腕をがっしりと掴んでいる。
「荒っぽいのは嫌いじゃないけど、汚い手で触れられるのは嫌いなのよね。…………やれ」
女性の無感情な指示で、雷精が賢治に向かう。
「正気か!? 俺が感電すればお前だって巻き添え……耐電圧素材か!?」
「これを使役する者としての心得、その二よ。残念だけど、気づくのが遅かったわね」
雷精が容赦なく賢治を襲った。
ダメだ……そんな、やめて!!
「うがああぁぁわああぁぁああぁ!?」
接触は一秒にも満たない僅かな間だった。賢治は女性の脚にすがるように崩れた。まるでダンゴムシのように体を丸めている。
「そんな……賢治!?」
呼びかけても反応がない。
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