第54話 「「「「あ」」」」
「……え、お兄ちゃん嘘だよね、そんなことあるわけないよね」
再び顔面蒼白の美穂は、ブルンブルンと僕の体を揺さぶる。
「うっ、うう……」
浦佐は浦佐で顔真っ赤だし。敷島さんは相変わらずニヤニヤしているし。
「んー、まあ、浦佐が別にいいんなら、勝負負けたけどやっぱりはっちー貰っちゃおうかなあ。それならWIN―WINだし」
カチカチ、と無線のマウスをクリックさせ、ネットショッピングを続けながら話す敷島さん。……あれ? 僕、このままだと注文されちゃう?
すると、すかさず、
「そっ、それは困るっすっ!」
あわあわと慌てふためいた浦佐が会話に割り込む、と。
「「「「あ」」」」
この場にいた全員が意味を持たない呆け声を一斉に漏らした。
「あれえ? 何が困るのかなあ? 私、気になるなあ」
「う、ううう……」
追撃を打つ敷島さんと、その場に悶える浦佐。……もう、この画だけで敷島さんが満足しているのが目に見えてわかるし。
「はっちー、今度私ともどこか出かけようよー。浦佐と妹ちゃん引率して夢の国行ったんでしょ? 私もたまには遠出したいなー。別に関東に限らなくても」
「そっ、それは困る……っすよ……」
にたび割り込む浦佐、しかし今度は語気に勢いがない。それと対照的に、水を得た魚のごとく活き活きとしている敷島さん。あげく回らない僕の椅子でセルフでクルクル回りだしてしまうし。
「んー? 何が困るのかなあ。だって、別にはっちーがどうなろうと、浦佐には関係ないんだろう? 浦佐は私にヘッドホン買ってもらえるし、私ははっちーに養ってもらえるし、これ以上の共勝ちはないんじゃないかなあ」
「そっ、それだと自分が半分くらい負けちゃうんすよっ──あっ」
「あわあわあわあわ」
美穂はもう完全にパニくっているし、浦佐も浦佐で言わずもがな。
……これ、僕はどんな顔してここにいればいいのだろうか。
「もう、ちゃっちゃと吐いたほうがいいと思うけどなあ私は。タイミングなんて探してたら、はっちーみたい優良物件、すぐに買い手がついちゃうだろうし」
パソコンの画面上では、たった今、敷島さんが浦佐に買ってあげるヘッドホンがカートのなかに入れられた。……あれ? これ本当に僕お買い上げされる?
「はっちー、普通にお財布くんとしても有能だし、買い物も付き合ってくれるしなあ。美人女上司の仕事を残業して手伝って、そのままホテルにお持ち帰りされる未来もありそうだなあ」
「うっ、ぅぅ……」
「善は急げって言うだろう? ほら、素直になっちゃいなよ」
幾度かの敷島さんのプッシュにより、ようやく覚悟を決めたのか、
「せ、センパイ、ちょっと、話したいことが……あるっす」
浦佐は、いじらしく僕に向き直してちょこんと正座をしたかと思えば、
「そそそそそそっ、そんなっ! ほ、本当のボスは浦佐さんだったなんて」「はーい妹ちゃんは私の家で美味しいアイスをご馳走してあげるよーおいでー」「わわっ、そんなっ、私はお兄ちゃんを守る義務があるんですううう」「お兄ちゃんを守る義務があったのはお兄ちゃんの両親だけだから安心していいよー」「わあああああああいやだああああお兄ちゃんは私とずっと一緒なのおおおおお」「一名様ご案内でーす」
気を利かせたのか、敷島さんは美穂を連れて隣の自分の部屋へと戻っていった。これで、僕と浦佐のふたりきりに。
「……は、はい」
僕も浦佐のほうを向いて座っては、彼女の言葉の続きを待つ。正直、言われるであろうことは想像がついているのだけど、いざとなるとそれなりに緊張するというか。
「……そ、その、なんて言うっすかね。い、色々遊んでくれているうちに、え、えっと」
自分のなかでもまだ要領がつかめていないみたいで、浦佐は俯いて手遊びながら、もじもじとした調子で話し出す。
「な、なんか気になるっていうっすか、そ、その……そ、それに、け、結構たくさんよくしてくれたっすし、そ、それで、え、えーっと……」
次第に彼女の顔から蒸気が溢れて、ぷしゅーという効果音さえ聞こえてくるのではないかってくらい、真っ赤になる。
「きっ、今日も……は、初音ちゃんに色々やられて……や、やっぱり、センパイが誰かのものになるの、嫌だなあって思って……え、えっと、そ、その、だっ、だからっ」
そこまで言うと、浦佐はパッと顔を上げては、
「こここっ、こっ、これからもっ、じっ、自分とゲームしてくれないっすか?」
とても真剣な様子で、彼女は言った。
それに対して、僕は──
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