第53話 上手な嘘のつきかた

 色々とおかしなところもあった勝負も佳境も佳境。

 各プレイヤー残りコマはひとつ、という段階に差し掛かっていた。それも、敷島さんは、


「……ここで1が出ればはっちーゲット、1、1……」

「「ぐぬぬぬぬぬぬ……出るな……出るな……」」

 残り1マスでゴール、という状況で、そうはさせじと神頼みをする浦佐と美穂の図だ。


「あー、残念。5かあ」

 このルドーというゲーム、ぴったりの数字を出さないと上がれないルールがある(オプションのひとつとして、らしいけど)。それが、泥沼具合を加速させているのだけど……。


「こ、この隙に初音ちゃんとの差を詰めるっすよー」

 半周程度差がある浦佐は、そう意気込んでサイコロを振るも、出た目は無情にも2。


「…………」

 牛歩過ぎる。こういうときまで出目がちっちゃくなるのはもはや不憫というか。


「今、サイコロまでちっちゃいって思ったっすねセンパイ」

 僕がそう思うと、考えを察したのか、ジト目で浦佐が僕のことを半分睨んでくる。


「あははは、嫌だなー、サイコロはちっちゃいって思ったよ僕は」

「ふーん、ならいいっすけど」


 ただ、得てしてこういうときって神の見えざる手が働くのか知らないけど、なかなかお互いが求める数字が出ないもので、敷島さんは大きな数字ばっかり、浦佐は小さな数字ばっかりがしばらく連続して出た。


 それでも、着実に進めば差は詰まるもので、サイコロ一発で敷島さんを叩ける距離にまで浦佐のコマは接近してきた。


「……ここで6が出れば逆転っす、初音ちゃんを振り出しに戻せるっす」

「6666666666666」

 ……さっきから美穂がバグっているような。


 しかし、美穂のバグりも空しく、サイコロの目は2。

「ああっ、せっかくのチャンスが……」

 敷島さんもさすがにさっきまでの余裕はなくなっているようで、特に煽りを挟むことなく、コントローラーを操作。


「……あ、2」

「「ふぅぅぅぅ、危なかった(っす)……」」

「……いくらなんでもそろそろヤバい気がしてきた。流れ的に浦佐に4が出てもおかしくないし……うーん、はっちーに養ってもらうまであと一歩なんだけどなあ」


 流れってものは、とことん正直なもので、敷島さんの動揺と、浦佐の追いついた勢いを天秤にかけ、次のターン。


 ここで「4」を出せば敷島さんが振りだしに戻る、という局面。

 恐らく、この場にいる全員が固唾をのんで画面の先のサイコロの行方を追ったと思う。


 コロコロと、時間をかけて揺れた目が示したのは、正方形を描き出した黒い点四つ。

 次の瞬間、浦佐のコマが自動で軽快にぴょんぴょん跳ねて移動したかと思うと、「カチッ」という心地よい効果音とともに、敷島さんのコマをスタート地点へと強制送還させた。


「いやったあああっすうううう」「やった、これでお兄ちゃんは守られた!」


 まあ、当たり前だけど、年少組ふたりは狂喜乱舞の大騒ぎ。まだ勝ったわけではないのだけど、美穂に至っては鼻水まですすっているから、相当な恐怖だったのかもしれない。


「あーあ、あとちょっとだったんだけどなー。さすがにここで行かれると心折れるよー、不運だったなー」

 あからさまな口調で敷島さんは残念がり、流れ作業でサイコロを振る。


「今更1が出てももう遅いんだよなあ。こんなもんだよねえ、現実って」

 この勢いのまま、浦佐は敷島さんを刺しきって、一時間半に渡る泥仕合に決着をつけた。


「わーい、初音ちゃんに勝ったっすー」

「くふふ、やっぱりお兄ちゃんは私と一緒だよね、そうだよねっ」


 ゲームが終わり、結果は六対五で浦佐の勝ち。見事、僕の人生は守られ、お高いヘッドホンを買ってもらう権利をゲットした、のだけど……。

「にしても浦佐、やけに必死になってゲームしてたよね。そんなにヘッドホン欲しかったの?」


 敷島さんは、負けたのにも関わらずやけに顔をニヤニヤさせて浦佐にちょっかいをかける。僕のパソコンで、浦佐お目当てのヘッドホンを探しつつ。


「えっ。そそそ、そうっすよ? それがどうかしたんすか?」

「いやー、ヘッドホンひとつであんなにガチになるかなあって思って。……それとも、私にはっちー取られるのがそんなに嫌だった?」


「っっっっ、なっ、なに言っているんすか、ははっ、太地センパイのことは全然関係ないっすよ、あはははー」

「嘘はもうちょい上手についたほうがいいと思うけどなー私。ねえ? 妹ちゃん」


「へ? う、浦佐さん……?」

「私はわざわざ予告したけど、そんなことする人他にはいないだろうし? さっさと吐いて楽になったほうがいいと思うけどなー私」

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