第52話 ジョニーとマイケル(予定)
最終ゲームが始まり、数分。ルドーというゲーム自体はサイコロを振ってルートを一周してゴールを目指すだけという至極単純なものなんだけど、他プレイヤーの妨害を受け得るというのが、このゲームが地獄と言われている所以だと思う。現に、
「ぎゃあああ、またあのコンピューターに踏まれたっす、ぐぬぬぬ、今に見てるっすよ」
「おーい、敵は私だぞー浦佐―。って私もそいつに踏まれたああああ、こいつ絶対許さない。私とはっちーのムフフ生活を邪魔するなんて、さてはお前もはっちーのことを狙ってるな⁉」
「お兄ちゃん? いつの間にコンピューターさえも落としたの? 私聞いてないよ⁉」
……なんでそうなるんだよおかしいだろ、アンドロイドとかならともかく、っていうか創作チックであったら面白そう打と思うけど、よりによってゲームのコンピューターって。何をどうしたら好いた惚れたの話になるんだか。
「そうそうはっちー、子供の名前決まったー? 私はマイケルとジョニーがいいと思うんだけど」
「色々突っ込みどころがあるんですが」
まず外国語由来でいいのかっていうのと、さっき男の子女の子ひとりずつって言ってなかったっていうのと、気が早すぎませんかってことと。ああ、考えるだけで頭が痛い。
「あれ? 不満だった? それなら──」
「初音ちゃん、いつまでもありもしない未来の話をしてるっすか、初音ちゃんの番っすよ」
「ああ、ごめんごめん、サイコロ振ってっと──」
すると、画面に表示された目を見て、浦佐は顔を真っ青にする。
「──って、そっ、そこ自分のコマがあるとこ──」
「えい」
「ぎゃあああああああ! せっかくゴールまであとひとマスってところまで来てたのにいいいいいいいいいいいいい! うわあああああああんんんん!」
瞬間、敷島さんのコマが浦佐のコマを踏みつぶして、浦佐のコマはスタート時点に戻される。おかげで、ゲーム開始から二十分くらい経ったにも関わらず、ゲーム開始と同じ状態になってしまった。
「うっ、うう……これだからこのゲームは嫌いなんすよお……」
合法的に今までの努力が無になるんだから、辛いったらありゃしない。セーブデータが壊れたとか、はたまた読書中に栞が外れてどこまで読んだかわからなくなるとか。そんな虚しさ。
「……ふっ、勝負とはときには非情なものだよ、浦佐」
「それ、言いたいだけっすよね、初音ちゃん」
「あれ? バレた? いやー、なんか中二心っていうかさ? そういう強キャラ感漂う台詞言いたくなる瞬間ってない? あるよねはっちー?」
「なんでそこで僕を巻き込むんですか」
……モノローグでクッサい言葉呟きたがる時期は確かに中学生のときあったけど。恥ずかしいから誰にも言わない。
「そういうもんさ浦佐。さ、はやく私のもとに追いついてきなさい」
「あ、二連続で6出たっす」
「んへぇ⁉」
「あ、また6っす」
「んぎゃあ!」
「あ、初音ちゃんのコマかコンピューターのコマ踏めるっす。それ」
「ひいいいいいい!」
……四コマ漫画か何かですか。いや、それにしてはオチが弱い気がするけど。
そして、浦佐を煽った天罰が下りたのか、敷島さんもスタート時点の状態に綺麗に戻っていた。
迎えた一時間後。
「よっし、これで三個目―。私リーチだぜっ、あと少しではっちーゲットー」
「む、むぐぐぐ、まっ、まだまだっすよ」
「あれえ? 浦佐はまだ二個しかゴールしてないけど? にっこにこ──」
「んぐ、んぐぐぐぐぐ、まっ、まだ終わってないっす、これからっす」
勝負はさすがに終盤戦に突入しており、敷島さんは四つあるコマのうち、三つをゴールさせておりリーチに、浦佐は半分、コンピューターはそれぞれリーチ、という状況だった。
このゲーム、終盤につれて展開が落ち着くものの、白熱度合いは増していく。ラストのコマを踏めるかどうか、追っ手が来る前に逃げ切れるかどうか、といったレース要素が増えるからだろうか。
「コンピューター追い抜いてくれた、これでケアすべきは浦佐のコマだけ、浦佐が追い付く前にゴールすれば……むふふ、ふふふふ」
「何想像してるんすか、初音ちゃん。捕らぬ狸の皮算用って言葉知ってるっすか」
「ん? はっちーとの甘々で十八禁な新婚生活」
「ぶふぉお!」
「浦佐さん頑張れ浦佐さん頑張れこんな破廉恥な人にお兄ちゃんは絶対渡さない渡さない」
……ゲームのはずなのに、僕の胃が……軋んで来ているよ。
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