第51話 地獄の運ゲー

「ほっ、ほうっふか?」

「……いや、だって僕と駄弁りながらゲームしても普通に上手いんだから」

 っていうか、ほっぺぷにってしながら喋らせるとなんか面白いな。


「それに、僕もこんな形で彼女できるの本望じゃないし……完全に巻き込まれただけだし」

「ほっ、ほうっふよねー、ははは」

「……お兄ちゃん、いつまで浦佐さんの頬っぺたぷにってしてるの」

「ごめん、なんかめちゃくちゃ触り心地よくて」


 美穂にジト目で指摘されて、ようやく僕は指を離す。


「…………。さっ、ゲームするっすよー、初音ちゃん」

 浦佐は僕の人差し指をボーっと一瞥したかと思うと、少ししてテレビの画面に向き直して敷島さんにそう告げた。


「ほうほう、やっぱりはっちー効果はテキメンみたいだねー。うんうん」

「なんでちょっと満足そうにしてるんすか」

「んへ? いやー、それは大人の事情ってやつだよ」

「なんすかー大人の事情ってー」


 ……まあ、浦佐も少しは普段通りになったのだろうか。軽口が叩けるくらいがちょうどいい。さっきまでほんとガッチガチに緊張してゲームしてたもんな……。

 さて、後がない状況でのスピードだけど……果たしてどうなることやら……。


「やったー、勝ったっすー、これであとひとつでタイスコアっすよ」

 結果は、敷島さんが予想していた通り、いつも通り(らしい)の反射神経を見せた浦佐の圧勝だった。


 いや、傍目から見ても凄かったし。目四つついているんじゃないのって思うくらい、カードを捨てたらもう次のカード決め終わっているし、それでいて相手の状況も見えているし。これが浦佐の本気ってやつかと実感させられた。


「いやー、さすがに反射神経じゃ勝てないなー。でも、こっから先は決着がつくまで私がゲームを選ぶことになるわけだしねー。さ、第十ゲームは何にしようかなー」

 敷島さんのぼやく通り、負けたほうが次のゲームを選ぶことになっている以上、もう浦佐がゲームを選ぶことはできない。浦佐はもう負けられないから。

 どのしろ不利であるには変わらないこの展開、どうするんだろうか……。


 なんて思ったのも杞憂みたいで、

「あれえー、ダイヤモンドだったら勝てると思ったんだけどなー。浦佐調子づいちゃったかな?」

 敷島さんが選択した第十ゲーム、自分の色のコマを目的地に全員引っ越しさせる、ダイヤモンドと呼ばれるボードゲームも浦佐が取った。……この手の頭脳派のゲームはこれまで敷島さんが全部取ってきたのに。

 火事場の馬鹿力ってやつか。


「むむむ……反射神経もだめ、頭使うのも駄目となれば……ラストはこれしかないでしょ」

 珍しく敷島さんがゲームセレクトで悩んだかと思うと、選ばれたゲームを見て、浦佐があんぐりと口を開けては、


「はっ、初音ちゃん……? しょっ、正気っすか……?」

 震えた声で聞いていた。


「正気だよー、私は正気。まあ、最後は運に全てを任せてもいいかなって思って」

 僕と美穂はその会話を耳にして、一斉に画面に目を移すと、そこには。


「ぶほっっっ!」

 ちょくちょく動画投稿サイトでその名を目にした、大抵「地獄」と銘打たれていることが多い、「ルドー」の名前が表示されていた。


 ……た、確かすごろくに近いゲームだったよな……ルドーって。ひと試合一時間程度かかることもざらにあるし、最後の最後の泥仕合を仕掛けてきた……敷島さん。


「というか、四人用のゲームじゃないっすか。どうやって勝負つけるんすか」

「足りないふたりはコンピューターにでもやってもらえばいいじゃん。私と浦佐で順位が上のほうが勝ちってことでいいでしょ?」

「べっ、別に自分はそれでいいっすけど……」


 ゴール目前で自分のコマが振りだしに戻ってしまう理不尽も兼ね備える地獄のゲーム、ルドー。浦佐も実況動画を一本あげているし、その恐ろしさは身に染みてわかっているはず。だからこそ、口淀んでいるのだろうけど。


「じゃ、決まりねー。私が勝ったらはっちーゲット、浦佐が勝ったらヘッドホンね」

 しかし何回聞いてもつり合いが取れていない賭けだよね……。僕の価値はちょっとお高いヘッドホンくらいなのかと、悲しくもなってしまう。いや、いいんですけど。


「あっ、はっちーは今のうちに将来作る予定の子供の名前でも考えておいてよ。女の子ひとり、男の子ひとりでお願いねー」

「……気が早すぎやしませんか」

「家族計画はちゃんとするに越したことないでしょ?」

 そりゃそうですけど。


 一抹の緊張が浦佐に走るのが目に見えた。

 そうして、最終ゲームの号砲が鳴らされた。

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