第50話 とんとんぴ、

「──んー、一発勝負だと味気ないし、ゲーム大全で11番勝負でもして、勝ち越したほうの勝ちってルールはどう?」

「自分はそれでもいいっすけど」


「よしそれで決まりね。種目は前のゲーム負けたほうが決めて、一回戦目ははっちーか妹ちゃんに適当に選んでもらおう」

「了解っす」


 と、僕が意見を言う前にあれよあれよとルールは固まってしまい、浦佐・敷島さんのゲーマーコンビは仲良く(?)僕のテレビにゲーム機を接続し始めては、あっという間に臨戦態勢を整える。


 その様子を見て、美穂は、

「ちょっ、おっ、お兄ちゃんどうするのこれっ? もし敷島さんが勝ったら……」

 切羽詰まった表情で僕に詰め寄る。


「……んー、まあ、そのときは敷島さんを僕が養うことになるのかな。納得はしないけど」

「そっ、そんなの駄目だよっ、お兄ちゃんは私とずーっと一緒に過ごすんだからっ」


「あー、妹ちゃんもセットで私は別にいいよー? 家族は多いほうが賑やかで楽しそうだし。あ、でもはっちーと赤ちゃん仕込んでいるときは別の部屋で寝て欲しいかなあー。兄妹丼はさすがにハードルが高いというか」


 僕と美穂との会話を聞きつけていた敷島さんが、浦佐の隣の位置に座りこんでは、清々しいくらいの笑顔でそう言い放つ。


「……敷島さんにとってはハードルが高いで済むかもしれませんが僕にとっては禁忌ですよ何言っているんですか。っていうか僕の気持ちは無視ですかそうですか」

「だって、はっちー好きな人いないんでしょ? ならいいじゃん」

「そっ、そういう問題じゃ」

 兄妹揃って言いくるめられてしまい、あえなくゲーム開始画面にテレビは切り替わる。


「よし、それじゃあはっちー。なんでもいいからゲーム選んで。ふたりで対戦できるの頼むよ」

 敷島さんは僕にコントローラーを手渡し、ゲームの選択をお願いする。


 勝負の舞台となったゲーム大全は、世界の色々なボードゲーム、アナログゲームをテレビゲームで遊べるという代物。パーティー要素が強い、って浦佐が実況していた気がする。

「じゃ、じゃあ……これで」

 目をつぶって適当に十字キーをいじって決まったゲームは──


「──よーっし、これでわたしの五勝三敗だね。リーチリーチっ」

 第八ゲームの将棋を敷島さんが取ったことで、僕のお嫁さんが決まる(?)のにリーチがかかってしまった。

 え? これ本当に僕敷島さんと付き合うの? そんな馬鹿みたいなオチある?


「……まっ、まだっすよ、まだまだっ……」

 ……あと、色々聞きなれないゲームもたくさんふたりはプレイしていたので、興味があって調べてみたら……。


 単純なゲームだと、必勝法が研究されていて、「先手必勝」だったり、「後手必勝」という結論が出ているゲームもチラホラとあった。そして、そういった結論が出ているゲームが選ばれたとき、必ず敷島さんは勝っていた。

 ……これ、もしかしなくても、本気で勝ちに来ている……?


「う、浦佐さんっ、頑張ってくださいっ、お兄ちゃんは誰にも渡しませんっ!」

「いやー、戦隊ものの悪役の気分を味わえる日が来るなんてねー。いい経験してるよー。妹ちゃんまでゲットできそうだし、毎日がハッピーになりそう」


 ……じゃあ僕はさながら囚われの姫ってとこですか? 捕まえたのは敷島さんだから、とんだマッチポンプだけども。

 追い込まれた浦佐は、口をパクパクさせ、虚ろな目で次のゲームを選んでいる。


 ……こっちはこっちでメンタル大丈夫か? とてもカジュアルなパーティーゲームをやっている目には見えない。


「それで? 浦佐、次のゲームはどれにするの?」

「……え、えっと……じゃ、じゃあ……す、スピードっす」

「あー、反射神経はねー、浦佐のほうが早いしねー。じゃ、それで九回戦といこうかー」


 ゲームを選んでからも目に見えて尋常じゃない精神状態なのを見かねた僕は、ちょんと浦佐の肩を叩いてみては、


「え? な、なんすか?」

「ぷに」

 とんとんぴ、の要領で浦佐のぷにっとした頬に指を食い込ませる。


「っっっっ、なっ、何しているんすかセンパイっ、し、小学生っすか?」

「いや、あまりにも緊張度合いがすごいから、ちょっとリラックスさせようかと思って」


「だっ、だからってそんな古典的なことしなくてもいいじゃないっすか」

「んー、だっていつもあんな楽しそうにゲームしてるのに、今日はめちゃくちゃしんどそうにゲームしてるなあって思って。現にそれだと調子出てないし」


「ふぇ?」

「普段通りやりなよ。そのほうが、上手にできてるよ、多分」

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