第48話 浦佐の不機嫌パロメーター
それから、浦佐とのゲームは美穂がお風呂上がるまで続いた。美穂が火照らせた頬とともに「お兄ちゃん、上がったよ」の一言が聞こえ、代わりざまに僕がお風呂に入ろうとすると、
「じゃあ、妹ちゃんと交代っすねー。ほらほら、妹ちゃんもやるっすよー」
いつもの浦佐の調子らしく、無邪気に美穂のことを呼びよせては、僕の代わりに美穂とレースゲームの続きをやっていた。
……ま、多少は毒気も抜けたかな。浦佐はあんな感じでいるほうが一番らしいよ。
「おっ、妹ちゃん、センパイより全然上手じゃないっすかー、速いっすねー」
「そっ、そうですか……?」
「はいっす。もう、センパイったら手先が不器用なのかわからないっすけど、なかなかに壁にゴンゴンするっすからねえ。笑い堪えるのが大変っしたよー」
……やっぱり訂正。なんかイラっとしてきた。さっきまでまあまあ真面目な話をしていたはずなのに、なんで結局はこういうオチになってしまうんだ。
僕は浦佐に文句のひとつでも言ってやろうかと思ったけど、自分がパンツ一丁であることを直前で思い出し、ぐっと堪えた。
そして翌日。少し早い時間に目を覚ました僕は、床にタオルケットを敷いて寝転がっているちびっ子に目をやっては、軽く苦笑いしてみせる。
……結局、あれから浦佐は終電ギリギリの時間まで僕の家でゲームをしてしまい、慌てて終電目指して駅へと駆けていったけど、間に合わず、僕の家に泊まる、ということになってしまった。それでも敷島さんの家には泊まらなかったあたり、まだ敷島さんにはおこ、なのかもしれない。
まあ、ふたりの問題はふたりに解決してもらうとして、僕は首を突っ込まないことにしよう。どうせ、ゲーマーふたりのことだ、ゲームしながら仲直りでもするだろう。
そう思いつつ、僕はゴミを出すために一度外に出ようとすると、隣の部屋から同じことを考えていたらしき敷島さんが、こちらはまだ夜が続いていそうな顔で共同廊下に出ていた。
「おっすおっす、はっちー。そういえば、昨日浦佐来たと思うけど、どうだった?」
昨日のトラブルメーカーは、特に悪びれる様子を見せたりはせず、普通に浦佐の様子を尋ねてきた。
「……おはようございます。どうもこうもないですよ。めちゃくちゃぷんすかしてましたよ……。美穂の前でも普通に下ネタ絡みの話するし、胃が痛かったです」
「でも、ぷんすかしてたくらいなんだ」
「……そうですね、まあ、ぷんすかしてたくらい」
ぷんすかしてたくらいってどういう意味だよ、と自分で言いつつ思いもしたけど。
まあ、浦佐の不機嫌パロメーターは、「むう、今ちっちゃいって思ったっすね」・「初音ちゃんなんてもう知らないっす、ぷんぷん」の小・中段階に分かれているようにも思える。……小中大の大はわからない。だって見たことないから。
「で、何か言ってた? エロゲについて」
「……シナリオにはとても感動したそうですよ。なんでこんなボロボロ泣かなきゃいけないんすかって」
「おおー、同志ができてうれしいよ、私は。これであの泣きゲーについての感想を言いあえる友達ができた」
……それはよかったです。
「っていうわけでさ、はっちーもどう? 浦佐のお墨付きだよ?」
「……いや、僕は別に。それに今は美穂がいますし……」
「大丈夫大丈夫。妹ちゃん帰ってからでいいからさ。それに、エロシーンもなかなか下半身に訴えるものがあるんだぜ?」
朝のゴミ出しにする話じゃないだろ、しかもそれを女子大学生とするという違和感。
「……それについての感想も浦佐から散々聞いたんで」
「ほへぇ、そうなんだ。何回逝ったか聞いた?」
「……はい?」
「え? だから、何回──」
「ちょっとあんた一回黙ろうか、さすがに言っていいことと悪いことがあるくらい理解しましょうよ」
「え? 逝っていいこと? そら人間の三大欲求だし──」
「ゴミ袋で殴られたいですか?」
僕がマジトーンで言うものだから、敷島さんはさすがに一旦口を閉じたものの、すぐにニヤニヤとさせて、
「ごめんごめんって、でも普通のAVとかエロ漫画より、付き合う前の過程がしっかり描かれているから、共感しやすいかなーって思って」
そらそうかもしれませんが、エロゲ―やったことないからわからないですよ……。
「……ふふふふ……それじゃあ、三の矢を放つとしますか」
「……今度は何をするんですか」
何か、とてつもなーく嫌の予感がするんですが。
「今日、起きたらはっちーの家行くから、浦佐引き留めておいて。泊ってるんでしょ?」
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