第43話 もやもやもやもや

 〇


 ドリームランドを出ると、途中の駅で寄り道をしてセンパイに晩ご飯を奢ってもらい、自分の家に戻った。そして、なんとなくスマホのロック画面を確認すると、円ちゃんから不在着信の履歴が残っていた。


「もしもし、どうしたっすかー? 円ちゃん」

 モニターの前に設置している椅子にひょいと腰かけて、自分は折り返しの電話を円ちゃんにかける。

 円ちゃんは数コールですぐに出てくれました。


「あ、もしもし浦佐さん? いや、そっ、その、頼まれていたエンドカードの初稿終わってメールで送ったから、確認して欲しいなあって電話で」

「あー、どうもっすどうもっす。ちょっと今日は色々あってもうヘトヘトっすから、明日見るっすよ」


「う、うん、よろしくお願いします……あれ? もしかして、今日がドリームランドの日だった?」

「そうっすよー、いやー、楽しかったっす、久々にはしゃぎまくったっすねえ」

 楽しかったのは事実だけど、眼鏡の件と身長の件は恥ずかしいだけなので、円ちゃんには言わないでおこう。


「そ、そうなんだ……そ、それはよかったね。……で、でも、最近ほんとに仲良くしてもらってるね、えっと……や、八色さん、だっけ?」

「そうっすよ、合ってるっす」

「ご飯も奢ってくれるし、鍵忘れたときも家泊めてくれたんだよね? それに、浦佐さんのゲームのお買い物にも付き合ってくれたって聞いたし……相当付き合いがいい人なんだね。そこまでしてくれる人、なかなかいないと思うけど……」


「まあ、確かにいい人っすねえ、太地センパイは。なんやかんや文句言いつつも初音ちゃんの課題も手伝ってあげてたっすし」

「……ほ、ほんとにいい人過ぎて……ま、眩しい……」

「んー、でも今年でセンパイが大学卒業しちゃうのがネックなんすよねえ。来年からは就職するみたいっすし、ここまで遊んでくれるのも今年までかもっす」


「で、でもっ。そんなにいい人だったら、大学の女の人が見逃さないんじゃないかな……?」

 自分がそんなことを言うと、ちょっと声のトーンを落として真面目な調子で円ちゃんは返す。


「んー、でもセンパイ、財布代わりにしか思われてないとか嘆いていたっすけど」

「でっ、でも、十人が十人全員、財布としか見てないって思うのは悲観的過ぎると思うし、ここまで付き合いいい人、私の大学のほうだと、それなりに彼女の噂絶えないし……。じ、時間の問題なんじゃないかなあ……」

「男の人に免疫ないのに、やけに詳しいっすね円ちゃん」


「ひっ、ひぅ! ちっ、違うよ? べっ、別にじっくり観察してたとか、そういうわけじゃなくて」

 秒で墓穴を掘ってくれるあたり、さすが円ちゃんっす。安心安全の品質っすね。


「はいはい、円ちゃんがぼっちなのは知ってるっすから、自分で情報収集したんすね。ひとりで脳内妄想するのもほどほどにしておいたほうがいいっすよ、時々気持ち悪い声漏れてるっすし」


「ひゃっ、ひゃい……。……けど、その八色さんが、いつまでも今みたいに浦佐さんに構ってくれるとは限らないと思うから、そこらへんは気をつけておいたほうが……。大学で浦佐さんの言う通り、八色さんに彼女ができなかったとしても、社会人になったら引く手数多かもしれないし……」


 円ちゃんにそう言われ、一瞬、自分は頭のなかで太地センパイが別の大人の女の人とデートしている絵を想像する。今日みたいに遊園地ではしゃぐ図でもいいし、もっと上品にディナーとかでも。


 …………んん?

「う、浦佐さん? ど、どうかした? 急に黙り込んじゃって」

「えっ、え? な、なんでもないっすよ、なんでも」

 今、なんとなく胸のなかがモヤっとしたような……。


「そ、そう……? な、ならいいんだけど……。じゃ、じゃあ、そろそろ電話切るね。り、リテイクの指示あったら、なるべく早めに連絡ください、お、おやすみ」

「お、おやすみっすー」

 そうして円ちゃんとの電話を終えると、モヤモヤとした気分を携えたまま、ゴロンとベッドに寝転がる。


「……何なんすかねえ、これ」

 自分の下唇に人差し指を当てて、考えてみるも、いまいち答えは出ないし、逆によくわからない感情は広がるばかり。


「んー、円ちゃんに聞いてみたほうが、でもついさっき電話切ったばっかりっすしねえ」

 とりあえず、シャワー浴びてサッパリすれば、何か変わるかも。


 と、思ったんだけど、結局その日はなかなか寝つくことができず、ようやく眠りにつけたのは、電気を落としてから数時間経ってからのことだった。

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