第40話 切り替えのよさが肝心です
美穂と隣りあわせで乗車したジェットコースターから降り、僕はスマホを手に取ってロック画面に表示されている通知を確認する。
うらさ:ここでジュース飲んでるっす
うらさ:画像を送信しました
「……とりあえず、浦佐が場所取ってる場所行こっか」「う、うん」
浦佐からのラインの画像を頼りに、美穂の手を引いて該当のお店に向かう。正午を少し過ぎた時間とは言え、たくさんの人で賑わっている園内のフードコートはごった返していた。そんななか、(ただでさえちっこい)浦佐を見つけることができるのだろうか、と思っていたけど、そんな不安は、ある意味悲しい形で外れた。
「迷子じゃないっすよー、ただ、一緒に来ている人達を待ってるだけっす」「ああもう、これ学生証っす学生証。さすがに大学生捕まえて迷子はないっすよ」
「……お兄ちゃん、私さすがに見ていて不憫に思えてきたよ」
三人掛けの席にひとり座る浦佐に声を掛けているスタッフとのやり取りを見て、美穂がふいに口にする。
「……奇遇だな、僕も同じ考えだよ」
「あっ、センパイに妹ちゃんじゃないっすかー。待ったっすよ、もー」
もはや同情すら覚える眼差しで彼女のことを眺めていると、浦佐も僕らのことに気づいたみたいで、席に座ったまま手をブンブン振って存在を主張していた。
僕は美穂と並んで浦佐の取ってくれていた座席に座り、持っていた荷物を下ろす。
「いやー、もう人気者って錯覚しちゃうほど色んな人に声を掛けられて大変でしたっすよー。最後のほうとか悲しすぎて心のなかで泣きそうになってたっす」
「お、おう。それは……なんていうか、お疲れ様です」
「とりあえず、先にセンパイたち注文しに行っていいっすよ。自分、先に軽く食べてたんで」
気丈に振舞って見せる浦佐だが、表情の奥底にはどこか複雑そうな感情が見え隠れしており、さすがに身長制限で引っかかり、スタッフに迷子と勘違いされ続ければダメージもでかいよなと、納得もする。
ここで僕と美穂が席を立つと同じことが起きそうなので、
「美穂、とりあえずこれで好きなの買っておいで」
僕は財布から千円札を二枚取り出して、美穂に渡す。
「え? こんなにいいの? お兄ちゃん」
「この手のお店って値段張るでしょ。二千円くらいあれば飲み物まで安心して頼めるだろうし、いいよいいよ。喉乾いて倒れられても困るし」
「う、うん。わかった。じゃあ、行ってきます」
「はーい」
美穂はすると千円札二枚を手に、注文口のほうへと駆け出していく。残った浦佐は、不思議そうな顔で僕のことを見てくる。
「いいんすか? ついていかなくて」
「ん? ああ、大丈夫大丈夫。美穂、基本はしっかりしてるから。これくらいだったら目離しても平気平気」
「そうなんすね」
「……それよか、今の浦佐をひとりにさせてまたメンタルがゴリゴリに削られるほうがこっちとしても辛いというか」
僕がそう言うと、途端に浦佐は隠していた複雑な感情を表情に出して、思いっきり渋い顔を浮かばせる。
「あー、まあ、慣れてると言えば慣れてるっすよ。バイト先にそれいじってくる先輩がいるんで。でも、立て続けにこうもなると、さすがに堪えるというか」
「……気にするなとは言わないけど、あまり落ち込むなよ……? ほら、何も知らない人は、外見しかわからないから、浦佐を子供扱いするだろうけど、僕とか敷島さん、まああと美穂は、浦佐がどんなことしているかは知っているからさ……。っていうか、僕より稼ぎある時点で普通に尊敬の対象なんだけどね」
「ふぇ? そ、そうっすか?」
「僕よりよっぽど自立してるでしょ。そんな大学生そうそういないと思うよ? そういう意味じゃ、僕よりも全然大人さ、浦佐は」
と、まあ思っていることをつらつらと話していると、萎み気味だった浦佐の顔色は少しずつ赤みを帯びていき、血色も良くなってきた。
「そう言われるとなんか元気が出てくるっすねえ」
「……な、なら何よりです」
「んー、なんだかお腹も空いて来たっす。やっぱり動き回るとエネルギー補給しないとっすよねえ」
ストン、と音を立てて席から立ち上がったと思えば、浦佐はニッコニコの笑みで財布を握りしめ、
「ちょっとお昼ご飯買ってくるっす。荷物番よろしくっすー」
と僕がいいと言う前に行ってしまった。……いや、いいって言うんですけどね。はい。
まあ、何はともあれ、機嫌が直ってよかった。
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