第39話 身長制限

「それで次はどこ行くっすか? さすがにお昼ご飯にするには早すぎる気もするっすけど」

「まあ、次乗ってからでいいんじゃないかな。美穂もそれでいい?」

「うん、私はそれでいいよ」


 満場一致でお昼は次のアトラクションを楽しんでから、ということになり、再び地図とにらめっこを始める。

「次、浦佐が行きたいところ決めていいよ」

「えっ、いいんすか? じゃあじゃあ、自分これ乗ってみたいっす」


 浦佐が指さしたのは、これまた絶叫系の、しかも今度はより純粋なジェットコースターに近いものだ。

 一瞬僕は、ある不安が頭を過ったけど……。


 いやいや、さすがに浦佐だってそれは頭に入っているはず。しかし、一応最年長者として聞かないわけにはいかなかったので、僕は確認をすることにした。ネタとかではなく、安全にかかわることだから。


「……ちなみに、それ身長制限かかってるけど、大丈夫……だよな?」

「……ぎく。だっ、大丈夫っすよ、いくらなんでも、十九歳になって身長制限に引っかかるなんてオチあるわけないじゃないっすかー」


 ねえ今思いっきりフラグ立てたけど大丈夫か? それ、絶対数センチに泣くパターンだよな? 信じるよ? 信じていいんだよね?


「だって乗りたいんすもん、ゲーム実況したことあるタイトルがモチーフになってるアトラクションっすもん、そりゃ実況者として乗りたくもなるっすよね」

 ……渋い目を浮かべつつ僕は地図をめくって、浦佐が行きたいと言ったアトラクションの説明を読む。身長制限、一三七センチ以上。


 この間、何かの流れで一四〇センチないって話を聞いた記憶がある。これ、下手するとほんとにアウトかもしれない。

「……浦佐、念のため聞くけど、春の身体測定での身長は何センチだった?」

「…………。ははは、女性に身長を聞くなんて失礼な人っすねー。ねえ、妹ちゃん」


 その怪しげな間はなんだ間は。それに美穂に助けを求めるな、年上だよね?

「えっと……それ、体重の間違いではないでしょうか」

 正論。美穂、それ正論なんだけど、多分今一番言っちゃ駄目なやつ。


「うわああああああん、妹ちゃんがいじめるっすよおおおお」

 悲報、十九歳大学生、十四歳中学生に泣かされる。理由、身長。


 泣きわめいてぴゅーと駆け出す先は、浦佐が言っていたアトラクションの待機列。

 あ、逃げ出すのではなく挑戦するのね。いや、別にいいんだけどさ、身長測ればいいだけの話だし。


 そう思って迎えた一時間後。アトラクション入口にある測定器に浦佐が乗ると、

「あ、一センチ足りませんね」

 無情な結果が、係員のお兄さんから告げられる。


「ぎゃああああああああああああああ!」

 そして、あまりにも悲しすぎる悲鳴が浦佐から放たれた。もう可哀そうすぎてかける言葉が見当たらない。


「……え、えっと、これ、あげるので大きくなったらまた来てね」

 もう(年齢は)大きくなっているんです、そいつ。多分どうしようもないんです。あまりにもその「大きくなったらこの紙を見せてね」の手紙は残酷すぎる。


「えーっと、はどうされますか?」

 気まずそうな顔をするお兄さんは、同行者である僕と美穂を見ては、そう尋ねる。


「あー、その」

「……いいっすよ、自分は先にお昼ご飯の場所取っておくっすから」

 僕が答えに窮していると、完全にしょんぼりとした浦佐が力なくそう言っては、トボトボとどこかに歩き始める。


「いっ、いいんですか? ま、迷子になったりとか」

「……ああ、それに関しては、彼女、大学生なんで大丈夫かと」

「えっ」

 まあ、そうなりますよね。


「じゃあ、センパイと妹ちゃんは楽しんでくるっすよー、あははは、是非とも感想を聞かせてくださいっすー。あはははー」

 浦佐はフラフラと手を振って、フードコートが密集しているエリアへと向かい始めていた。僕と美穂は顔を見合わせては、仕方ないのでふたりで乗ることにした。


「でも、お兄ちゃん、浦佐お姉さん、大丈夫かな」

 コースターに乗り込み、安全バーを下ろすタイミングで、美穂はふと僕に話しかけた。


「え? 何が?」

「……迷子に勘違いされないかどうか」

「……さ、さすがにあいつだって大人だし、学生証携帯しているから心配はないと思うけど……」

「それはそうだけど、あまりに一日に何度も繰り返されると、心に来るよ?」


 ……やべえ、今更だけど不安になってきた。

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