第37話 夢に人は群がるらしい

「……やっば、なんでこんな人がいるんだよ……」

 電車での移動も終わり、無事に夢の国の入口に到着すると、まずその人の多さに僕は圧倒されていた。

 いや、わかってはいたけど、いざ目の当たりにすると驚愕を通り越して引いてしまうというか。


「そりゃあ、夢の国っすからねえ」

「……そんなんわかってるよ」

「夢に人は群がるんすよ。いつまでだって人は夢を見たい生き物っすからねえ」

「……妙に嫌な言いかたをするな。刺さる人には刺さるぞそれ」


 まさか夢の国入口でそんな哲学めいたこと聞かされるとは思わなかったよ。

 僕はカバンのなかをガサゴソと漁り、あらかじめ購入しておいた入園のチケットをふたりに渡す。


「はい、これチケット。浦佐のがこっちで、美穂がこっち」

 ……大人と記載されたものを浦佐に、中人と記載されたのを美穂に渡す。……逆にしたほうが、絶対スムーズに通過できる気がするんだけど、まあ嘘はいけないので、実年齢通りに入口を通過してもらおう。


 入園の待機列に入って、順番を待っていると、僕らの番がやって来た。改札のところに立っているお姉さんにチケットを見せるのだけど、まあ美穂と浦佐で引っかかったよね。


「生徒手帳お持ちですかー?」

 お姉さんの言葉に、美穂はポケットに入れていた中学校の生徒手帳を提示、お姉さんはにっこりとして「どうぞー」と口にしたけど、浦佐に関しては困惑しきっているのが目に見えてとれた。


 さすがに浦佐も改札のお姉さんも可哀そうになってきたので、僕は「あ、そいつ大学生なんでそれで大丈夫です」とフォローを入れる。

「あっ、そうなんですねっ。では、どうぞー、お楽しみくださーい」


 さすがは入園者を楽しませるプロと言ったところだろうか、僕がそう言うとすぐに笑顔を作っては、高いテンションで僕らを送り出してくれた。


「いやー、ついに来たっすよー夢の国―」

「わぁ……ここがドリームランド……」

「それで……どこから行く? 僕はどこからでも構わないけど……」

「自分もどこからでもいいっすよー。妹ちゃんはどこ行きたいっすか?」

「えっと……じゃ、じゃあ……これ」


 入口で貰った園内の地図を広げる美穂が指さしたのは、

「「……初っ端からアグレッシブ(っすね)だ」」

 夢の国では有名な、水を切る乗り物のアトラクションだった。


「まあ、美穂がそう言うなら、そこ行くか」

「妹ちゃん、はぐれるとあれっすから、手繋いで行くっす」

「はっ、はい」

 いざ、園内を歩きだそうとする前に、浦佐は美穂の手を取って、この人混みでいっぱいのなか迷子にならないようにしてくれている。


 僕がその様子を微笑ましい目で眺めていると、浦佐は羨ましがっていると勘違いしたのか、

「センパイも繋ぐっすか? 確かに、センパイがはぐれると結構面倒なことになりそうっすからね」

 ニコニコした浦佐がちっこい手をにゅっと僕の目の前に差し出した。


「……はいはい、それはそうですね」

 実家近辺にあった夏祭りとは比較にならない混雑具合だ。繋いでいるほうが安全っちゃ安全だろう。

 浦佐を中央に、三人で手を繋いで歩きだしたのはいいんだけど、あれ、これって……。


 身長差的に、子連れで夢の国に来ている家族に見えなくもないんじゃ……と一瞬思ったりもした。……だって、頭の位置が完璧にアルファベットの「V」になっているし。……左が僕で右が美穂。そして凹んでいるところが……浦佐。


「ふふふん~ふふふん~」

 上機嫌そうな浦佐を怒らせるのもあれかと思い、胸の内にとどめておくことにした。あと、それを言うと美穂があらぬ方向に曲解しそうだし。「私と一生添い遂げてくれるんだねっ、お兄ちゃん」とか割とマジで言いかねない。いや、自惚れとか抜きに、客観的推測でね。……あのブラコンなら絶対言う。間違いない。


「……さ、じゃあ行こうかー」

「あれ? どうしたんすかセンパイ、そんなご飯にマヨネーズかけて食べている人を見たときみたいな目をして」

「どういう例えだよ」


 しかし、無駄なところで鋭いなこのちびっ子……。まさか本当のことを言うわけにはいかないので、

「いや、外暑いなーって思って」

 と、適当なところで誤魔化しておいた。

 うん、人を守る嘘、大事。

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