第34話 年上だから

「もぐもぐもぐ……んんー、センパイの大学の学食、普通に美味しくて羨ましいっすねえ。これだったらコンビニ行かずに学食で食べるっす」

「お、美味しい……。これであんなに安くていいんですか……?」


 ふたり向かい合って食べるお昼ご飯はどちらも絶品だったようで、自分はあまりの美味しさにフラフラさせている両足がなかなか落ち着かなかった。……そこ、足が短いって思ったっすね? 地面につけようと思えば着くっすからね?


「「ごちそうさまでした」」

 自分も妹ちゃんもほぼ同じ頃合いにご飯を食べ終わったみたいで、すると自分は学食横にあるソフトクリームのスタンドが目に入った。


「……じゅるり……暑いっすし、こんな日に食べるソフトクリームは格別な気がするっす」

「……え? ま、まだ食べるんですか?」


「甘いものは別腹っすよ。妹ちゃんも食べないっすか? せっかく東京に来たんすから、色々食べないと損っすよ損」

「じゃ、じゃあ……はい」

 そうして、食べ終わったトレーを返却口に持って行ったついでに、自分たちはソフトクリームも販売している大学生協が運営しているらしきファストフード店の注文口に向かった。


「自分はソーダ味で、妹ちゃんは何にするっすか?」「じゃ、じゃあ、私は抹茶で」「以上でお願いするっす」

「…………。あ、お会計、四百円です」


 この間、多分さっきの学食のおばちゃんと同じリアクションなんだろうなあ。「え、そっちが年上?」的な。


「スイカでお願いするっす」「え、えっと、光りましたらタッチお願いします」

 ピピッと音を鳴らして支払いを済ませると、カウンターからすぐに変哲のないソフトクリームが二本、ひょいと差し出される。それを受け取り、またさっきの席に戻ってアイスをペロペロと舐め始める。


「夏場のアイスは格別っすねえ」

「……あ、ありがとうございます、こんなにたくさん食べさせてもらって」

「全然全然。年上っすからね、年上っ」


 それに、もし自分に妹がいたらこんな感じなのかなあとか思えて、それなりに楽しかったりもするし。

 ……実妹がこんなにたくましく成長したら、自分は泣く自信があるっすけど。


「……なんとなくで聞くっすけど、どうして妹ちゃんはそこまでセンパイのこと大好きなんすか?」

 ソーダ味のソフトクリームに心地よい刺激を舌に感じながら、自分はふと会話の種としてそんなことを尋ねた。


「……妹が兄を好きになるのに何か理由が必要ですか?」

 しかし、返ってきたのは予想の斜め上を超えるガチの回答。自分がその答えにあんぐりと言葉を失っていると、コホンと軽く咳払いをした妹ちゃんは、


「……そ、それに、お兄ちゃんには色々たくさんお世話になってきてますし……」

 と、まあかみ砕きやすい答えも出してはくれた。

「お兄ちゃん、基本的に面倒見がいいので、私のやりたいことも大体付き合ってくれるんですよね」


「……それで今も一緒にお風呂に入っている感じっすか?」

「? 妹が兄と一緒にお風呂に入るのは当然じゃないですか?」

 筋金入りだ、この妹ちゃん、ガチのお兄ちゃん大好きっ子だ。もし法という制限がなかったら行くところまで行きそうっす。


「……ま、まあ、面倒見がいいのは本当っすよねえ」

 初音ちゃんのレポートもなんやかんやで最後まで付き合ってあげてたし、自分がノンアポで買い物付き合ってって頼んでも結局はついてくれたし。


 なかなかここまで面倒見がいい人そうそういないだろう。同じバイトにああいう先輩がいたら凄く重宝しそう。

「それに、お兄ちゃん、今まで一度も彼女作ったことがないんです。やっぱりこれって──」


 ……いや、それは単純にセンパイが妹ちゃんに気を使っているだけで、センパイがシスコンってオチはないと思うっすよ。

 って言いたかったけど、それを言うと今妹ちゃんが食べている抹茶味のソフトクリームが自分の顔面にヒットしそうだったのでグッと飲み込んで、


「ははは、そうかもっすねえ」

 と愛想笑いを浮かべておいた。いやあ、こうやって人は大人になるんすねえ。高校生のときだったら普通に言ってた気がするっすよ。


 その後も妹ちゃんの惚気話、もといセンパイのいいところをぶんだんに聞かされた。話が終わる頃にはいい時間になっているという恐ろしい事案になっていて、この日はセンパイの大学を回って一日を終えることとなった。

 まあ、楽しかったんで、オールオッケーっすけど。

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