第32話 カルチャーショック
「センパイの大学っすね。ここから同じ路線なんで行くの楽ちんっすし、いいっすねえ」
乗り換えは必要だけど、そんなに難しくもない。そこそこキャンパス内を歩いて、お腹が空いたら学食でお昼でも食べればいいだろうし。
「じゃ、そういうことにするっすかあ」
れっつらごー、と軽く口にして、自分は妹ちゃんを引き連れてセンパイの家の最寄り駅へと歩き出す。
「実家でのセンパイは、どんな感じなんすか?」
途中、ずーっと無言で歩くのもどうかと思い、なんとなく無難な話題を振ってみる。
「え、えっと……基本部屋で本読んだり勉強したりで……ご飯のときだけリビングに来る、って感じでした」
「……今と大して変わらないっすね」
いや、実際に今のセンパイの生活を詳らかに見たことはないから、正確なところはわからないけど、想像はつく。
「で、お父さんやお母さんが変なこと言うと、すかさず突っ込んでました」
「…………。突っ込み属性、実家のカリスマ教育の賜物っすか?」
「お父さんは気持ち悪いくらい私にべったりしようとしてきますし、お母さんはたまに信じられないくらいキツい下ネタを言ったりです」
「……お、おお」
お兄ちゃんにべったりな妹ちゃんが言うのもなんか面白いっすけど、センパイの家族、もれなく全員カオスかも。
どうりで初音ちゃんの対応がこなれているんだ、センパイは。普段から慣れているからってわけだ。
「この夏休みも、私がお兄ちゃんのところに遊びに行くって言ったら、お父さんがお小遣い増やすから行かないでくれえって泣きながら言うし、私が買った往復の乗車券も隠そうとしたしで」
「……大丈夫っすか? お父さん」
「いえ、大丈夫じゃないと思います」
お兄ちゃんのところに遊びに行くのすら止めるほど、娘を溺愛する父……。自分の親がそうだったら限りなく嫌っすねえ……。幸い、自分の親は頭が固いだけで常識は持ってたから、そういった心配はしなくてよかった。
「早くお父さんのところを出てお兄ちゃんと一緒に暮らしたいです」
「……は、はあ」
で、お父さんの溺愛っぷりもなかなかだけど、妹ちゃんのブラコンも重度なものだ。……というか、それこそお父さんの遺伝なんじゃないかとか、思ったりもする。
だとしたら、かなりの皮肉っすけど。
そんな雑談をしているうちに、最寄り駅に到着。自分はそのままⅠCカードをタッチして改札を通ろうとしたのだけど、妹ちゃんは「あ、私切符買わないといけないんで」と券売機に向かおうとした。それを見た自分は、
「んー、ちょっと待つっす」
今にも機械に千円札を通そうとしていた妹ちゃんにストップをかける。
「地元でICカードって使えないんすか?」
都内を移動するなら、断然切符よりカードのほうが楽だし安い。一枚持っていて損はない、と思って提案したけど、
「……地元の駅、そもそも券売機も改札機もないんです」
妹ちゃんの返事に、自分は驚きのあまり口を閉じるのを忘れる。
「え、それってどうやって電車に乗るんすか」
「……バスみたいな感じ、って言えば伝わりますか?」
「……か、軽くカルチャーショックっす……」
東京生まれ東京育ち、実家の多摩地域を捨てて二十三区に住んだ程度でウキウキしていた自分が恥ずかしくなる。
「で、でも、切符より安上がりなのは間違いないっすから、持っておいたほうがいいっすよ、スイカ」
「そうですか?」
「そうそう。乗り換えのときとかほんとに楽ちんっすよ?」
「な、なら……」
結局、妹ちゃんにスイカをオススメして、買ってもらったのはいいけど、日本って広いんだなあって思った時間だった。
それから一度の乗り換えを挟んで、センパイの大学の最寄り駅に到着。
歩いて数分のところに、キャンパスはあった。
「ここみたいっすね。センパイの大学」
「……ほ、ほんとにここ、学校なんですか? か、会社とかじゃなくて……?」
「大学っすよ。都心にある大学はどこもこんな感じっす。郊外に行けば、もっと学校らしい雰囲気にもなるっすけど」
「そ、そうなんですね……す、すごい……」
「じゃ、早速キャンパスのなか、歩き回るっすか」
「はっ、はいっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます