第31話 対価は広告宣伝です

 お風呂上がり、冷蔵庫に入れていた500ミリリットルの炭酸を美穂とシェアして飲んだ後、まあ夜も深い時間だし寝るか、ということになったのだけど。

「くふふ……お兄ちゃんの匂いがするお布団久し振りだなあ」


 至極当然、というように美穂は僕のベッドに横になり、そこで僕も寝るように誘導する。

 一緒にお風呂に入って洗いっこをして、部屋にいるときも僕の膝の上を定位置にするような妹だから、予想はついたかもしれないけど。


「……はいはい、僕もそこで寝るから、ちょっと待って」

 僕は美穂の待つベッドに入る前に、スマホをポチポチいじって浦佐にラインを送る。


八色 太地:悪いけど、明後日明々後日とバイトあって、家空けちゃうんだ

八色 太地:その二日、美穂の面倒見てくれないかな?


 徹夜でゲーム中なのか、案外すぐに既読はついた。


うらさ:いいっすよー全然

うらさ:どうせ夏休み中、ずーっと初音ちゃんの家でゲームしかしてないっすから

うらさ:たまには外行くのありっすねえ

うらさ:スタンプを送信しました


「……それで送るスタンプがゲームをしているキャラのイラストかよ。ってあれ? このイラスト……」


八色 太地:……さりげなく自分のアイコンのスタンプ宣伝するなよw

うらさ:あっ、気づいたっすかー? 知り合いに発注して作ってもらったんすよー

うらさ:センパイも気に入ったらダウンロードしてくださいっすね

うらさ:友達にお金入るんで

八色 太地:気が向いたら


 ……知り合いのゲーマーのスタンプを使うのは、なんか色々恥ずかしいような……。いや、別にそんな萌えが強いタッチではないんだけど、なんとなく。


うらさ:もー、つれないっすねえ、センパイは

八色 太地:はいはい、それよか、美穂のことよろしく頼んだ

八色 太地:お願いします

うらさ:了解っす

うらさ:スタンプを送信しました


「……だから宣伝するなって、ふっ」

「お兄ちゃん? どうかしたの?」

「いや、なんでも。そうそう、今浦佐にラインしたら、いいよって言ってくれたから。明後日明々後日は、浦佐にどこか連れて行ってもらって」

「ほんと? やったっ。お兄ちゃん、ありがとうっ」


 ベッドに入った僕にぎゅーっと抱きついては、そうお礼を言う美穂。

「……いや、お礼は僕じゃなくて浦佐にね? じゃ、電気消すよ」

「はーい」


 部屋の照明が落ちると、割とすぐに、胸元にひっついている妹は規則的な寝息を立て始めた。移動もあったし、それなりに遊んだわけだし、疲れもあったのだろう。そんな美穂を起こさないためにも、暗闇でスマホをいじることはせず、ただただぼんやりと視界に映る部屋の壁を眺めながら、僕は眠気に負けるのを待った。


 〇


 太地センパイから妹ちゃんのことをお願いされた当日。自分はTシャツ短パンという身軽な格好でセンパイの家のインターホンを鳴らした。

 十秒ほどして、


「はーい。あ、浦佐か。今日はありがとう、ちょうどよかった。これから僕、出かけるところだったからさ」

 外向きのためにしっかりとした服を着たセンパイが出てきた。


「全然、お安い御用っすよ」

「夜の八時くらいには家帰れると思うから、それまで頼んでいい?」

「はいっす」

「それじゃ、妹のこと、よろしくー」


 本当に出かけるタイミングだったようで、自分を出迎えるなり、センパイは入れ替わるように靴を履いて駅の方角へと出ていった。

 センパイを見送った自分は、とりあえず玄関の鍵をガチャリと閉めてから、部屋にいる妹ちゃんのもとに歩み寄る。


「どうもっす、センパイに頼まれて、遊びに来たっすよー。どこか行きたいところ、あるっすか?」

 ベッドの上にちょこんと座っていた妹ちゃんは、自分の問いかけにすぐ答えた。


「え、えっと……。が、学校、に行きたいです」

「え? 学校っすか?」

 一瞬、何やら訳アリなのかと身構えたけど、次の言葉を聞いて腑に落ちた。


「おっ、お兄ちゃんの学校、見てみたいです、私」

 なるほど。妹ちゃんは、どこまでもお兄ちゃんのこと、大好きなんだなあって、思った。

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