第29話 (自称)第185次敷浦大戦

 それから二時間程度。コースのクリアはそっちのけで繰り広げられた(自称)第百八十五次敷浦大戦は、浦佐の三十キル、敷島さんの二十九キルで決着がついた。……いや、このお髭の兄弟のゲームって、キルって単位使ったっけ?


 ちなみに、知能指数小学生のゲーマーふたりが喧嘩している間、僕と美穂は足場のすみっこで震えてひたすら死なないように耐えてコインを回収していた。多分、税務署に申告漏れしそうなくらいな額は回収したと思う。知らないけど。


「いやあ、やっぱり勝てると気分がいいっすねえ」

「んぐぐぐぐぐ」

「うーん、なんか隣に誰か2Pを操作している人がいるはずっすけど、よく見えないっすねえ、小さいからっすかねえー」

 想像の通りだけど、2Pは敷島さんだ。


 ……煽ってる、めっちゃ煽ってるよこのちびっ子。器も小さいよまじで。


「ちくしょうめ、なんでこんなつるぺたつるつるのおチビちゃんにここまで煽られないといけないんだ」

 ……多分、敷島さんが戦争に負けたからだと思います。戦争に負けた国は得てしてひどい目に遭うのは歴史の基本ですよ。


「ちょっ、誰がつるぺたつるつるっすか! 失礼っすよ初音ちゃん」

「……スポブラすら必要なさそうな発育具合だし? それにこの間一緒に風呂入ったときはそうだったし?」


「っっっ! それをわざわざ太地センパイの前で言わなくてもいいじゃないっすか! セクハラっすよセクハラ!」

「お兄ちゃん、つるぺたつるつるって何?」


 ……なんで戦争が終わった直後に戦争が始まっているんだよ。国力どうなっているんだよこの世界線。ゲームかよ、ゲーマーだったなそうでした。


「……えーっと、美穂が心配することじゃないと思うから大丈夫だよ」

 だってもうつるぺたつるつるじゃなかったから。それはついさっき確認してしまった。


「……惨めっす、惨めっすよこんなの……うう……」

 そして浦佐は浦佐で感情がジェットコースターみたいに乱高下して今はどん底に沈んでいるみたいだ。がっくりと俯いている。そんな彼女に、敵というか煽っていた敷島さんが優しく肩を叩き、


「大丈夫、安心しろ。世のなか色んな奴がいる。浦佐みたいなつるぺたつるつるがいいって言う男もいるかもしれないから気を落とすな」

「そっ、そういう問題じゃないんすよおおおおおおおお!」

 火にガソリンを注いで死体にボディーブローをかました。


 さて、どんちゃん騒ぎをしていると、またまた玄関からインターホンが鳴り響いた。

「……え? また誰か来た……?」

 美穂、さらに浦佐・敷島さんと続けて来客で痛い目に遭っているので、三度目のそれに正直僕は身構えてしまう。が、


「あーはいはい、来た来た」

「はい……? 敷島さん?」

 敷島さんは、訳知り顔で立ち上がって、勝手に玄関を開けて来客を確認。


「デリバリーでーす。ピザなどお届けに上がりましたー」「はいはーい、どうもでーす」「それじゃ、ありがとうございましたー」「はーい、お疲れ様でーす」


 あっという間に終わったかと思えば、途端部屋中にピザの香ばしいいい匂いが広がり始めたではないか。


「いやー、ゲームに熱中してどうせ晩ご飯作るの面倒になるだろうなあって思って、あらかじめ注文しておいたんだ。みんなで食べよう? 妹ちゃんも好きか? ピザ」

「は、はい。ピザ、好きです」


 なるほど、時計を見れば、時刻は夕方と言って差し支えない頃合いだ。今から買い物に行って晩ご飯を作るのは正直かなりだるい。だから、ゲームする前スマホポチポチ操作していたんですね……。


「ならちょうどいい。たくさん頼んだから、たんまり食べな。でないと、このちびっ子が大食いしちゃうからなー」

「はっ、初音ちゃん、このピザって……」

「んん? 年長者ふたりの奢りだけど?」


 ちょっと待て、なんか勝手に僕も奢ることになっているんだけど? いや、美穂の分は僕が出すのが筋だから、ある意味正しいのか?


「わーいっ、初音ちゃん、どうもっす……って」

 目の前に転がり込んで来た晩餐に飛びつこうとした浦佐だったが、ピザを手につかむ直前でひょいと敷島さんに高いところに取り上げられてしまう。


「はっ、初音ちゃん? なっ、何するんすか、食べられないっす」

 猫じゃらしを追いかけるみたいにぴょんぴょん飛び跳ねる浦佐の姿はやや可愛らしいものがある。


「……その前に、私に何か言うことがあるんじゃないか?」

「その節は、大変失礼したっす!」


 ……結局、仲良いのか? このふたり。

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