第28話 報復は報復を生む

「持ってきたっすよー」

 少しして、小さな身体に大きなゲーム機を抱えた浦佐が僕の部屋に戻ってきた。

「よしよし、じゃあ配線繋ごうかー」

「了解っすー」


 そう言うと、敷島・浦佐両ゲーマーは他人の家のテレビだと言うのに、慣れた手つきでコードをポチポチ繋いでいく。

 ……何、このホームなのにアウェイ感……。

 あっという間にモニター画面には、某もともと花札を作っていた会社の最新ゲームハード機ほホーム画面が映し出されている。


「それで、何するっすかー? 有名どころのソフトは全部ダウンロードしてるっすから、なんでもできるっすよ? 妹ちゃん」

 さあどうぞ、と右手を画面に広げ、美穂を招待する身振りをする浦佐。


「な、なんでもいいんですか?」

「どうぞどうぞ、やりたいゲーム言ってくれていいっすよ? CMで見たーとか、友達の家でやったーとか、なんでも」

「じゃ、じゃあ、色んな人の作ったコースができる──」


「ああ、メーカーっすね、あるっすよ。自分、そのゲームの動画も何本か出してるっすし」

「……え? 動画?」

 膝の上の美穂は、くるっと振り返って、きょとんと首を捻る。まあ、初めて聞いたらそういう反応になるよね。


「ああ、自分、ゲーム実況の動画上げてて、それでゲームいっぱい持ってるんすよ。たまーにこの変なこといっぱい言うヘンタイさんも手伝ってくれるっすし」

「だーれがヘンタイだ。健全な性欲を兼ね備えた大人と言え」


「さっき自分のことを生温かい目で見た仕返しっす」

「待て待て、それならはっちーに仕返しすべきだろ。こう見えても大学生なんて紹介したんだから」

「その仕返しはそのうちするから問題ないっす」


 ……仕返しされるのね、そのうち。


「さっ、くだらない前振りはほどほどにしないと、妹ちゃんが飽きちゃうっす。さっさとゲームするっすよー」

「へいへいっと。ほれ、はっちーたちのコントローラー」


 適当なところで話を一旦止めて、僕と美穂にコントローラーを手渡す敷島さん。さすがゲーマー、コントローラーもたくさん持っているようで、しっかり四人分のそれを準備してきたみたいだ。


「四人でメーカーするんだったら、複数人用のコースやったほうがまずベタっすよねー」

「それはそうだろうな」

「じゃあ、そういうコースメインでやってくっすか。あ、妹ちゃん、操作わかるっすか?」


「え? あ、え、えっと、あんまりよく……」

「なるほど、えーっとっすね──」


 美穂が自信なさげに手元のコントローラーに目線を落とすと見るや、すかさず浦佐は美穂のすぐ真横に座って(つまりは僕の真横)は「Aボタンがジャンプで、長押しすると大ジャンプができるっす──」などと、親切に説明をしてくれている。


「──これで大体の説明は終わりっす、何か質問あるっすか?」

「お、お兄ちゃん。こ、このお姉さん、凄くない……?」

「ふふーん、伊達に長いことゲーム実況やってないっすよ。実況者は、ゲームの面白さを伝えるのが仕事みたいなもんだと思ってるっすからね」


 「お姉さん」呼びされたのが嬉しかったのか、浦佐は胸を張って得意げに鼻を膨らませ、

「……お姉さん、いい響きっす……」

 感慨深そうな顔つきに。


「自分にも妹がいたら、こんな感じだったんすかねえ」

「浦佐の妹は、なんか知らんけど浦佐の分まで身長食って、お姉ちゃんチビだなあとか言って来そう」


「むきいいいい、初音ちゃん、言っていいことと悪いことがあるっすよおお」

「さっき私のことをヘンタイ呼ばわりした仕返しだよーだ」

「むむむむむむ、今に見てるっすよ」


 ……知能指数小学生かよ、このふたり。僕の感動を返してくれ。正直さっきの浦佐は格好いいなって思ったんだから。妹の尊敬を無に帰さないでくれ。

「やーい、やれるもんならやってみなー」


 いつの間にか始まってたコースに、髭の生えた兄弟と、カラフルなキノコがふたり現れる。すると、弟キャラが突然兄のキャラを掴んだと思ったら、

「ぎゃあああああああああ!」


 コースに並ぶ足場と足場の隙間に広がる溶岩に投げ込んだ。……投げ込まれた浦佐の操作してた兄キャラは、当然死亡判定になってしまう。


「……やったすね初音ちゃん、こうなったら戦争っすよ」


 それから、僕と美穂の実兄妹を差し置いて、画面のなかの兄弟が激しい喧嘩を繰り広げたことは、言うまでもないと思う。

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