第27話 敷島さんの下ネタ連発教室

「……いや、僕はシスコンじゃないから、まじで」

「……お兄ちゃんは、私のこと、嫌いなの?」

 僕がやんわりとそう否定すると、頬ずりする距離にいる美穂が途端に悲しそうに瞳をうるうると揺らし始める。


「いやっ、嫌いとか、そういうわけではなくて……」

「へへへ、そうだよねー、そんなわけないよねー」

「「……やっぱりシスコンじゃん(っす)」」

「なんでそうなる」

 浦佐と敷島さんに生温かい目を向けられる僕。


「いやねえ、だって中二の妹と一緒にお風呂入るなんて、ねえ? シスコンじゃなきゃなんだって言うんだよ? なあ? 浦佐」

「……なんでニヤニヤしてるっすか初音ちゃん。なんか嫌な感じっす」


 浦佐の言う通り、敷島さんはテーブルに両肘を立てて、まるで品定めをするような視線を美穂と浦佐、それぞれに向ける。

「だってねえ? 発育がそれなりに進んでいる妹とお風呂だよ? そんなんおっきしないほうが──」


「だーかーら、一旦あんたは黙ろうかまじでゲーム機叩き割るぞ」

「お兄ちゃん、おっきって何?」

 ああもう、また余計な拗れが発生したじゃないか。違う、違うからね? 僕は断じて妹で興奮するような人間ではない。そうなったら自害する。間違いない。


「……あれだよ、そのうち学校で習うから気にしなくていいよ」

 とりあえず、美穂にはもう少しの間純粋でいてもらうことにして、この問題はひとまず片づける。


「……それで、今更ですけど、何しに来たんですか、おふたりは」

 色々あったインパクトに隠れてしまったけど、このふたりも、何か用事があって僕の家にやって来たんだろう。まともかどうかはさておき。


「え? いや、ふたりでゲームするのも飽きたから、はっちーも一緒にどうかなーって思って、誘いに来た。よくあるあれだよ。やーいろくんっ、あっそびーましょっ、って奴だよ」

「……そうなんですね」


「ま、それでまさかはっちーの大事なところをお目にかかるとは思わんかったけどなー」

「……あの、あんましそこには触れないで貰えますか?」

「いやー、エロゲ―以外で初めて見たよー」


「お兄ちゃん、えろげーって何?」

 ねえこのやり取り何回すればいいの? 敷島さんわざとエロい単語美穂の前で使って、僕をからかっているんじゃないよね? ほんとに。


「まあ、せっかくだし、はっちーの妹ちゃんがいるんだったら、一緒にゲームしてく?」

 これまで幾度となく僕に渋い顔をさせ続けてきた敷島さんは、ここにきてようやく最年長者らしいことを言い出した。


 敷島さんは、美穂の目の前でしゃがみ込んでは、目線を合わせてにこやかな笑みを浮かべて見せる。

「ゲーム……って、テレビに繋ぐ?」


「そうそう、……あれ? はっちーの家ってゲーム禁止みたいな家だったりした?」

「いえ、単純に家にゲームがなかっただけです。そんなに厳しい親じゃありませんし」

 ……多分、美穂が欲しいって言ったら喜んで買いに行くよ、僕の父親は。


「へえ、そうなんだ。じゃあ、もしかしてゲームするの、初めて?」

「は、はい」

 敷島さんの質問に、美穂は軽く首を縦に振る。その返事を見て満足そうに頬を緩めては、


「おーし浦佐、今すぐはっちーの家に一式持ってこい、妹ちゃんにゲームの面白さを存分に布教してやるぞ」

 今まで見てきたなかで最高にキメた顔つきで、浦佐に指示を出した。


「あいあいさーっす」

「っていうわけで、今からはっちーの家でゲーム大会な? いいだろ?」

 キメ顔のままの敷島さんは、ポチポチとスマホを操作しながら、僕に確認を取る。……いや、まあ駄目って言ってもやるだろうけど。


「ぼ、僕は別に構いませんけど……」

「じゃあ、そういうことで決まりな。よーし美穂ちゃんって言ったっけ。一旦そのお兄ちゃんの隣を離れて、テレビの前に移動しようか」

「だって? お兄ちゃん、テレビの前に座ろ?」


「「…………」」


 こうなるとは思ったけどね。うん。僕は何も言わない。

 僕がテレビの正面に座ると、美穂は当たり前のように僕の膝の上にちょこんと座る。これが定位置。


「……きょ、兄妹で背面座位だと……?」

「お兄ちゃん、はいめんざいって──」

「……これ以上美穂に悪影響及ぼすようなこと言わないで貰えますか? 敷島さん」

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