第22話 フラグもちょこんと
壮観というか、なんというか。青色を基調としたパッケージと赤色を基調としたパッケージがずらーっと本棚に並んでいる部屋の様は、ある意味綺麗すぎて言葉が出てこない。
「よいしょっと。あれ? どうしたっすか? そんな、部屋の入口でボーっと突っ立っちゃって。なんかあったっすか?」
部屋の真ん中に置かれているテーブルにゲーム機の入った紙袋とリュックサックを置いた浦佐は、キョトンとした顔で首を捻って僕のほうを向く。
「……いや、ほんとにゲームばっかりだなあって思って……」
所狭しと連なっているゲームソフトの棚の合間合間には、デスクトップのパソコンにゲーミングチェアと呼ばれる椅子や、少し小さなモニター、さらにはノートパソコンも一台置かれている。
「あ、モニターもこの上に置いてもらっていいっすよ。すぐに接続しちゃうっすから」
「ど、どうも」
浦佐の一言で、テーブルにモニターを置いてようやく重たい荷物から解放された僕。ふう、と一息ついて、どこかゆっくりできそうなスペースがないかキョロキョロとすると、
「あー、あれっしたら、そこのベッド使っていいっすよ。暇なら、ゲーム機貸すっすから、お好きにどうぞっす」
手持ち無沙汰になった僕のことを察して、なんでもないようにそう言った。
「……え? あ、ああ」
浦佐は普段、僕のベッドの上に寝転がっているから、そうそう意識することないんだろうけど、普通他人の寝床を使うのにはそれなりに緊張するっていうか、なんというか。
「? 座らないんすか? ずっと立ったままで疲れないっすか?」
しかし浦佐は不思議そうな顔を浮かべたまま。
「……お、お言葉に甘えますね」
このまま座らないとそれはそれで浦佐がキョトン顔のままなので、僕は家よりもひとまわりくらい小さなベッドに腰を下ろす。
「モニター繋ぎ終わったら、アイス買いに行くんでいいっすか?」
僕がテーブルに置いたモニターの箱を空けて、中身を取り出しながら浦佐は提案する。
「え? あ、ああ。うん。それでいいよ」
「今使っているモニター、ちょっと画面の調子がおかしくなってきちゃったんすよねー。初めて買ってから数年使ってたっすから、まあそろそろかもとは思ってたんすけど」
ポコポコとケーブル類を引っこ抜いては、古いモニターの後片付けを進める彼女。ゲーム機の接続が早かったように、これの片づけも超絶スピーディーで、あっという間に自治体指定の粗大ごみのシールを貼る段階にまで到達した。
僕はその様子を、特に何をするまでもなく、ただただボーっと眺めているだけだった。
続いて浦佐は今日買ったモニターの箱を開けて、また接続を始めようとしたのだけど、古いものよりひとまわりふたまわりも大きいものを買ったみたいで、
「……ぅぅぅぅぅっ、大きくて持てないっすぅぅぅぅ」
身体いっぱいにモニターを抱えてテレビ台に置こうとしているけど、正直顔が真っ赤で危なっかしい。
「……て、手伝おうか?」
ベッドから腰を浮かせて、僕は浦佐の手伝いをしようとしたけど、
「だっ、大丈夫っすぅぅぅ、普段バイトで重たいもの持ち運んでるっすからああ」
と、一刀両断。が、しかし、その五秒後。
「おわっ。おっとっとっと……」
案の定というか予想通りというか。恐らく重さというよりはモニターの大きさに耐えきれなくなった浦佐が、後ろによろめいて二歩、三歩とバランスを崩した。
その先には、ついさっき後片付けを終えた古いモニターが。
「あっ、危ないっ」
このままでは浦佐の足とモニターが激突して、色々と事故ってしまうと踏んだ僕は、咄嗟に飛び出して浦佐の華奢な体を抱き留めた。
そのまま僕と浦佐は地べたに尻餅をつく形でなんとか止まることができて、後ろのモニターとの衝突は避けられた。新しいモニターも、浦佐が大事に抱きかかえたままなので無事だ。
「……ど、どうもっす……。おかげで助かったっす……」
抱き留めたまま尻餅をついたことで、都合、僕の膝の上に浦佐は収まっている状態なんだけど。
……こ、こうして見るとほんとちっこいというか……。いや、普段から小さい小さいとは思っていたけど、いざ抱き留めるとさらにというか……。それでいて年頃の女の子らしくなんとなく身体は柔らかいし。……いや、なぜそんなことを知っているかと聞かれれば妹のせい、とだけ言っておこうと思う。
「……そ、そこの台に置けばいいの?」
「は、はいっす」
なんか妙に変な空気感になってしまったけど、とりあえず気を取り直して僕は浦佐からモニターを受け取り、言われた台に移動させた。
それから浦佐が接続を終えてアイスを買いに行こうと言いだすまで、僕らの間に会話は生まれなかった。
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