第14話 弱い僕と強い彼女と未成年
僕の家で開催された焼肉パーティー、まあ精神年齢が実年齢に追いついていないのではないかと思うふたりのせいで、時折騒がしくなることもあったが、
「ああーっ、それ、自分が育ててたお肉なのにー」
「おいおい、何生ぬるいこと言ってんだ浦佐。ここは戦場だぞ、チャンスを逃した奴に肉は当たらん」
「じゃあ初音ちゃんが大事に焼いてたカボチャもーらいっと」
「あああああああ! 私のカボチャあああああ!」
……騒がしくなることもあったが、概ね順調に進んでいたと思う。うん、でもね。
……僕、お高い和牛、ひと切れしか食べられなかったんだ、ふたりとも、気づいているかなあ?
とまあ、到底ふたりに受け入れられるはずのない抗議も心のなかでさて置いて、ひとつ気づいたことがあった。
それは、敷島さんはそれなりにお酒が強いということ。
僕が一本ビールを開ける間にもう三本目を飲んでいるし、だと言うのに全然酔っ払う素振りがない。正直僕は一本飲んだだけでほろ酔い気味だ。
「んー? はっちー、なーにもってんのー?」
そして、そんな僕の様子を見た敷島さんは、面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりにニヤニヤとしだし、
「飲み足りないから持ってんのー?」
陽キャ必携(偏見かもしれないけど)の煽り文句を僕に放っては、空になったコップに二本目となる缶チューハイを注いできた。
「……敷島さん、実は陽の者だったりしますか?」
僕は僕で陰キャラを自覚しているから、大学での友達も陰キャラばっかりだ。磁石は陰と陽で引きつけ合うけど、人間関係はそうもいかない。まあ、水分でできているからね。仕方ない。
つまり、参加するのも陰キャしかいない飲み会だったりするのだけど、まあそんな煽りする人はいない。
だからこその、陽キャ予想だったりするのだけど、
「んなわけ。陽キャラは二浪二留なんてしないよ。二留はするかもしれないけどさ。そもそも大学で口利くの、そこのちっこいのだけだし」
「むむ、失礼っすねえ、人をちっこいの呼ばわりなんて」
「ああ、それは失礼しました、お詫びに私が育てたでっかい肉をあげるから勘弁してくれ」
「わわっ、いいんすかっ? わーい、ありがとうっすー」
……いや、それでいいのか、浦佐。単純にもほどがないか。
「一度くらい、言ってみたいって思わない? それが今だっただけよ。っていうわけで、ほれほれ、まだイケるだろ? 大丈夫大丈夫、私だって潰れるほど飲ませる趣味はねーよ、後片付け自分でするの面倒だし」
……ちゃっかり片付け僕に振ったぞこの人。っていうか後片付けなかったら僕潰されてたの? 恐ろしや……。
「……まだ飲めるのは事実ですから、いいですけど……」
ただ、このときに少し自重というか、警戒をしておけば、今後の悲劇を防げたのかもしれないと思うと、軽率だった気もする。
というのも、それからもお酒は敷島さんがどんどん飲んでいき、それに僕も付き合う形になったのだけど。
中盤あたりに飲んだ焼酎がほんとに決定打になったと思う。
……本格的に、僕は酔っ払った。
それで、何が起きたかというと、別に吐いたとか、寝たとか、ハイテンションになったとか、そういうわけではない。ちょっとだけ、なんか意識がふわつく、そのくらい。
例えるなら、自分のコップと、浦佐のコップの区別がつかなくなる、そんな感じ。
つまるところ。
……浦佐は、事故的に、僕が間違って注いでしまった焼酎(原液まま)を飲んでしまった。
僕と敷島さんがそれに気づいたのは、焼肉も残り数枚で終わり、というところに差し掛かったとき。
「……ふふふふ、せんぱぁい、ご飯のおかわりくださぁい」
空っぽになったお茶碗を僕に手渡しながら発された、浦佐の一言。
明らかに口調が蕩けていた。
「「え?」」
「はやくくださいよぉ、せんぱぁいいい。うう、はやぁくうう」
タンタン、と軽くではあるが、テーブルを叩いて催促する様は、まさしく幼稚園児。
「……なあ、はっちー。こいつに、酒飲ませたか?」
敷島さんは、真面目な表情で僕に問いかけるも、
「……いえ、そんなこと、してないと思いますけど……」
酔っている僕が、覚えているはずもなく。
ある意味で地獄とも言える宴は、ここから始まるといっても、過言ではなかった、うん。
※※※
お酒は二十歳になってから。未成年の誤飲を避けるためにも、ストローで区別するとか、工夫をしましょう。はい。
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