第13話 割りばしパチン

 翌日。部屋にホットプレートを用意して、炊飯器に三合、お米をセットした状態で、僕は敷島さんと浦佐の買い出し部隊の到着を待っていた。

 一時間ほど前に「そんじゃ、近所のスーパーに行ってくるわー」と言い出て行ったから、そろそろ戻って来てもいい頃合いだ。


「……飲み物も大丈夫だね」

 冷蔵庫のなかには、キンキンに冷えているビールと、缶チューハイ。あと焼酎。さらには未成年の浦佐用にペットボトルのオレンジジュースとソーダも買っておいた。……まあ、ソーダは焼酎割るのにも使えるし。ちなみに、焼酎は敷島さんのオーダーだ。僕はあまりお酒に強くはない。友達と飲みに行くと大抵グラス二杯開けたらなんかいい気分になっちゃうし。


「……サラダ油よし、キッチンペーパーよし、換気よし、匂い対策よし」

 ……大切にしている本とか、枕布団はあらかじめ押し入れに避難させておいた。まあ、本は大丈夫だと思うけど、念には念を入れておいた。


 あと、クーラーにホットプレートとかなり電気を使うので、ブレーカーが落ちないようにだけ気をつけないと。多分、それプラス電子レンジなんて使おうものなら一発でアウトだろうし。


 そうこうしているうちに、開けておいた玄関がガチャリと開く音がした。

「買い出し部隊かえってきたぞー」

「おにくっ、おにくっ~」


 ふたりとも両手に大きなレジ袋を持って、部屋に入る。……浦佐に関してはなんだったら足したら身長といい勝負になるんじゃないかって思うくらい。

「……おわっ、肉こんなに買ったんですか……」


 僕がレジ袋の中身を覗きこむと、ここは相撲部屋かって突っ込みを入れたくなるレベル。いや、確か力士は鶏肉を食べるんだろうけど、両手を地面についてないから。……ってどこかで聞いた気がする。


「……いちにさん……よ、四パックって……」

「それにはっちーご所望の和牛も含めて五パックなー」

「……そんなに食べきれるんですかって思いましたけど……」

 そう言い、僕は視線を肉からレジ袋を床に置いたちびっ子に移す。


「うううー、お腹空いたっすねー。もう自分ペコペコっすよー」

 よだれを飲み込む浦佐の様子を、僕と敷島さんは苦笑いしつつ眺め、

「まあ、この大食いちびっ子なら、全部食べきれるだろうな、はっちー」

「……でしょうね。僕もそう思いましたよ」


 あの油そばでW盛りを一瞬で平らげたこの子なら、肉五パックもあっという間に食べきるんだろうなって……。

「おにくっ、おにくっ、おにく~♪」

 鼻息混じりでホットプレートの脇に席を取った浦佐は、テーブルに置いてあった割りばしをパチンと割って、プレートに油を注ぎ始める。


「ほらほらっ、初音ちゃんと太地センパイも早くするっすよー」

「……ちょっ、ちょ、待って。野菜とか切らないと」

 僕はもうひとつのレジ袋から、もやしとか白菜とか、豆腐とか、キャベツその他諸々を取り出す。


「ぶーぶー、早くお肉食べたいっすー」

 浦佐は頬をぷくりと膨らませ、割りばしをパチパチさせる。

「はいはい、わかったわかった。私が焼いてやるからその間米でも食ってな。はっちーは野菜を頼む」

「……わ、わかった」


 僕は野菜の入ったレジ袋を持って、台所へと向かう。その間に、敷島さんがお肉のパックを開封したようで、ジュ―という美味しそうな音が響き始める。

 うかうかしていると、僕の分のお肉まで食べられてしまいそうなので、そそくさと、手早く野菜を一口大にカットして、お皿に乗せる。


「おっ、お待たせっ……って」

 ようやく野菜の準備が終わった頃には、お肉の半パックが既に空になっていた。

「……早くない?」


「私も思ったよ。浦佐、ちょっとストップ。とりあえず乾杯しよう。はっちー、とりあえず私ビールちょうだい」

「は、はい。じゃあ僕もビール飲みますね……浦佐は?」

「じゃあ自分はオレンジジュースお願いするっすー」

 冷蔵庫から飲み物を持ち、紙コップに氷とビール、ビール、オレンジジュースを注ぐ。


「よし、それじゃあとりあえず、前期お疲れ様でしたっていうことで」

「「「かんぱーい」」」

 ……あ、久しぶりにビール飲んだ気がする。ひとりだとお酒飲まないし。


「ふたりともお酒飲めて羨ましいっすねー。お酒って美味しいんすかー?」

「お、浦佐も飲むかー? 美味いぞー?」

 いや……未成年に酒飲ませたら駄目でしょ。

「……僕の目が黒いうちは飲ませませんからね」

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