第6話 ジャンピング正座
「それでそれで、なにやるっすかー? 自分、ダウンロード版ばっかり買ってるっすから、なんでもできるっすよー」
まだやるともいいよとも言っていないのに、浦佐は初めて見るはずの僕の家のテレビにひょいひょいケーブルを繋いでいく。
「……いや、ゲームとか僕よくわからないし……」
たまに友達の家で遊ぶくらいだったしなあ……。ゲームより本読む奴だったし、僕。
「コンセント、ここ使っていいっすかー?」
「……い、いいけど」
「んんー、最近録画回しながらしかゲームやってなかったっすから、こうやって普通にゲームするの久し振りかもしれないっすねー」
なし崩し的にゲームをすることになったようで、浦佐はポンとベッドの上にジャンピング正座をして、僕にコントローラーを手渡す。
「希望がないんだったら、まあベタにシュマブラでもやるっすか? ふたりしかいないっすけど」
……ああ、友達の家に行くと大概ある多人数で遊ぶあのアクションゲームね。僕、あまり得意じゃないんだけどなあ……。
「い、いいけど……」
ほどほどにやって寝られたらいいけど、……この間のどんちゃん騒ぎを見るに、なかなかそうはいかないんだろうな……。
これから訪れるであろう地獄の訪れに、一抹の不安を抱きながらも、僕はキャラクターセレクト画面で、なんでもかんでも吸い込んで飲み込んだり吐き出したりする、ピンク色のもちもちしたキャラを選択した。が。
「……ううう、なんで勝てないっすかー、ゲームそんなにやってないって言ってたっすよねー?」
ところがどっこい、僕と浦佐が対戦をすると、十回やったら七回僕が勝ってしまうくらい、浦佐はなんか、こう……運が悪かった。
別に浦佐が下手なわけではない。コントローラーを捌く指の動きはああゲーマーだなあって思わせるものだったし、キャラの動きにも無駄はない。なのに、だと言うのに、
「ぎゃああああ、なんでこのタイミングで爆弾がああああ」「ピコピコハンマーで殴らないでくださいっすよおおおおお」
とまあ、主にアイテムドロップの運がなかったというか、さらに、
「うわああああん、なんで自分のときは1しか出ないのに、先輩がやると平気で7とか9が出るんすかあああああ」
リスクとリターンがある攻撃を持つキャラをお互いがそれぞれ操作したとき、浦佐はとことんリスクの憂き目に遭ってしまったのに、僕はほとんど決まるという豪運っぷり。
恐らく、純粋な実力差は歴然なのに、運が全くないがゆえに、僕が勝ってしまうという、僕から見ても不憫なことになっていた。
……ただ、これで話が終わらないのが、僕にとっても不運だったわけで。
「ううう、自分が三連勝するまで寝ないっすよ、こんなの、こんなのってないっすよおお」
この浦佐操というゲーマー、大の負けず嫌いのようで、僕が勝ってしまったことで火がついてしまったみたいだ。
深夜三時を過ぎた段階でそんなことを言い出し、「あ、これはもしかしたら徹夜確定かもしれない」と軽く恐怖を抱いた。
そして僕がようやく眠りにつくことができたのは、朝の七時のこと。眠気によるプレイ精度の低下によって、僕の運をもってしてでも浦佐が勝てるようになったのが、主な理由だと考えられる。ちなみに、わざと負けようとすると浦佐に怒られたので、それはできなかった。つまり、どうしようもなかったわけだ。
「……や、やっと寝られる……」
僕がそんなうめき声とともに硬い床にダイブしたと同時に、ベッドに陣取っていた浦佐も、
「……じ、自分もさすがに寝るっす……おやすみなさいっす……」
とふわふわした声をあげて、バタンと布団に倒れ込んだ、と思う。
……大学の友達を泊めたときでさえも、こんな徹夜はしなかったよ……。
僕が目を覚ましたのは、これまたアホみたいに連打されたインターホンの音でだった。
「……んんん、小学生のイタズラか……?」
半分イラっとしつつも、ボサボサになった頭を掻きつつ、僕は玄関の扉を開ける。
「おはよう、はっちー。浦佐いるらしいから着替え持ってきてやったぞー」
そこには、まあもはや突っ込みを入れることすら野暮なくらいラフな格好をした敷島さんが。なんか見えそうだけどもうそこには触れない。初対面でノーブラな人なんだから。
「……着替えもあるんですね」
「まー、頻繁に泊まってるからなー。浦佐の私物もそこそこ置いてるし」
「……っていうか、僕の家に持ってくる必要ありました?」
「いや、私これから大学行くつもりだからさー。単位くださいって土下座するために」
……突っ込みどころしかないよ、もう。
いや、はい。……いいです、なんでも。
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