第5話 学年にひとりくらいいるなんか凄いやつ枠

「……そういえば、ご飯は? 食べたの?」

 いいよとも言っていないのに、僕のベッドにちょこんと腰を下ろしては、床に届いていない両足をパタパタとさせている彼女に、僕はおずおずと尋ねる。


「コンビニで色々買ってきたんで、平気っすよ」

「……そう。ならいいんだけど」

 なるほど、浦佐は背負っていたリュックをすっと両膝の上で抱えては、詰め込んでいたものが色々と吐き出されていく。そのなかには僕の家の近所にあるコンビニのおにぎりだったりお弁当だったりカップ麺だったり。あと、魔剤。


 まあ、それはさて置き、僕は一緒に取り出されたバイト先のものらしき制服に目が行った。……というのも、僕がたまに立ち寄る古本屋と同じチェーンのお店の制服だったから。


「……バイト先って、もしかして古本屋?」

 興味のまま、僕が尋ねると、あっという間に開けていたおにぎりを半分食べ進めていた彼女は、


「ほうっふよー」

 と、口をもごもごさせて答える。

「んんっ。高二のときから始めてるっすから、今年で三年目っすかねー」

 しかもかなりのベテランだった。そうこうしている間に浦佐は二個目のおにぎりに手をかけている。


「オカマの店長だったり、下ネタばっかり言う先輩だったり、なんか雰囲気重そうな年上の後輩だったりと、色々カオスっすけどねー」

 なんだその、他人として会う分には面白そうだけど、関わると胃が軋みそうな集団は。


「は、ははは……そりゃ賑やかなことで」

 おにぎりを食べきった浦佐は、飽きることなく定番の唐揚げ弁当のフタを開ける。

 いや、さっきからご飯食べるスピードえげつなくないか? っていうか、身体ちっこいのにめっちゃ食うな! まだおにぎり食べ始めて二分も経ってないぞ?


「……どうしたっすか? そんな鳩がパチンコ玉でも喰らったような顔して」

「どんな例え……? そこは豆鉄砲じゃないの……?」

「普通に言っても面白くないかなーって思って」

「……別に面白さは求めてないというか。いや、……よく食べるなあって思って」


 僕が、妙な間を置いてそう言ったことで、浦佐は意図していないこちらの含意を察してしまったようで、

「……むう、さては、小さい割には、よく食べるなあって思ったっすね、今」

「……いや、ソンナコトナイヨ」

「清々しいまでの棒読みありがとうっす」

「……どういたしまして」


 それから、浦佐は十分も経たないうちに、おにぎり二個、唐揚げ弁当を平らげ、満足そうな顔を浮かべる。

「んんー、食べたっすねー」

 シャツの上からお腹をさすりながら、リュックからまた何かを取り出す彼女。


「ちょっとパソコンいじりたいんで、Wi-Fi使ってもいいっすか?」

 浦佐の手には、タブレット型のノートパソコンと、巷で人気のテレビにも繋げることができる携帯ゲーム機。

 ……あ、ここでもゲームする気なんだ。


「い、いいけど。……これ、SSIDとパスワード」

「どうもっす。んー、本当は今日の零時からアプデが入ったゲームの配信するつもりだったんすけど、家帰れないんじゃどうしようもないっすからねー。予定変更の告知だけしないと、視聴者さん待ちぼうけになっちゃうっすし」


 ……ん? んん? 配信? 視聴者? んんん?

 なんか耳馴染みのない単語が並びましたけど。


「ああ、そう言えば言ってなかったすね。自分、ゲーム実況してるんすよ。ほら、これ」

 ポカンと口を半開きにした僕に、浦佐は若干の含み笑いを浮かべ、自身のスマホでメジャーな動画投稿サイトのチャンネルページを見せてくる。


「……登録者数、五万人……?」

「大学生のうちに、銀の盾貰えるまではなりたいっすけどねー。まだまだ発展途上っす」

 あれ、あれれ……? この子、もしかして、学年にひとりくらいいる、すんげー奴枠なのでは……?


「どうしたっすか? そんな、大雨のなか、学校サボりがちなヤンキーがびしょ濡れの子犬拾っているのを見かけちゃった融通の利かない女子のクラス委員長みたいな顔して」

 いやだから例え。細かすぎるって。


「……よし、これでオッケーっと。さ、やることもやったっすし、ゲームしてもいいっすかー? というか、一緒にやるっすか?」

 カタカタとパソコンを触り終えた彼女は、さっさとパソコンだけリュックにしまい、ゲーム機の電源を入れる。


「……コントローラー、僕の家にはないけど」

「あー、それなら大丈夫っすよ。自分、常にコントローラー持ち歩いているっすから」

 ……それは準備のいいことで。

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