第3話 男は魔法使いになれるらしいけど、

「そういう人ばっかりでほんっと困るっすよねー。人を見た目で判断するとろくなことないっすよ?」

 ま、まあ。ぐうの音も出ないほどの正論なんだけど……。


「自分のバイト先でも小さいこといじってくる先輩がいるっすし、ぷんぷんっすよ」

 ……大人は肉声でぷんぷん、だなんて言わないと思うけど、それを言うと火に油を注ぐ結果にしかならないだろうから、言わないでおこう。


「ったってねー。華の女子大生になって通い詰める先なのが四つダブっている同級生の家ってどうよ? 彼氏のひとりやふたり作んなくていーのか?」

「いやー、恋愛なんてノイズっすからねー。今々は必要ないっすよー多分」

「んー、まあ浦佐がそう言うならいいけど、魔法使いになれるのは男だけらしいから、三十までに処女はどうにかしておいたほうがいいと思うぞー」


 僕が油を注ぐの我慢したのに、敷島さんは普通に火に灯油をぶちまけてくれたよ。ああもう、僕の気遣いを返してくれ。

「……サラッと何下ネタ言ってるんすか初音ちゃん。そんなんだからモテないんすよー」

「いやいやいや。第一こんな廃人みたいな生活している女がモテるわけないだろ? なあ、えーっと」


 ……そう言えば、ちゃんとした自己紹介してなかった。そりゃお隣の住人の名前なんていちいち把握なんてしないだろう。ましてや学生同士なら。


「八色です。八色太地やいろたいちって言います。大学四年生」

「あーそうだ、八色八色。んー、なんか言いにくいからはっちーって呼ぶけど、いいよな?」

 ……どうせあなたが年上なんでなんでもいいですよ……。ゴミとかクズとか言われなければ。


「で、はっちーもそう思うよな?」

「…………」

 しかしまあいきなり答えにくい質問を僕に投げかけることで。


「別に気なんか使わなくていいぜー。ここにいる女は普通の感性なんて持ってないし、エロゲ―ヒロインみたいな萌え要素もほぼ皆無だし」

 え、えろげー……とは? なんぞや? 僕の知らない名前が出て来たぞ?

 僕がキョトンと呆けた顔をしていると、敷島さんは意外そうな表情を浮かべ、


「あれ? 非オタだとしてもジャンルとしては知っていると思ったけど、えーっと、こういうのだよ、こういうの」

 床に散乱しているもののなかからゴソゴソと何かを取り出したかと思うと、


「っっっ!」

 がっつり胸がボロンしてるっていうかもはや行為中の美少女のイラストが載ったパッケージを見せてきた。


「浦佐より面白い反応すんな、はっちー。浦佐に見せたら白い目で見られたんだけど」

「そりゃ、普通はそうっすよ」

「ま、とまあそんな感じに男が喜びそうな要素はほとんどないって例えを出したんだ」


「は、はあ、な、なるほど……」

「よかったらはっちーもプレイするか? 彼女いない悲しみを癒せるぞ?」

「い、いえ、え、遠慮しておきたいというか……」


「えーそうか? まあ、無理にとは言わないけど。……あ、でも三次元のオカズに飽きたらいつでも言ってくれよ? 抜きゲーから純愛系までなんでも揃えているからさ」

「……あ、ありがとうございます……はい……」

 なんて会話をしているんだろうか、僕は。


「んんんー、そろそろ朝ご飯でも食べよっかなー、浦佐も腹減ったんじゃないのか?」

「減ったっすねー。でも今日自分バイトあるっすから、夕方には新宿行かないといけないっす」

「んじゃ、また適当にデリバリーすっか。あ、はっちーも一緒に食べてくか?」


 とまあ、時刻は正午を過ぎているにも関わらず食べるご飯が朝ご飯っていうのがもうバグりまくっている。……細かいことを気にしてはいけないと感じた僕は、

「い、いえ……そろそろお暇させていただきます……」

 のろのろと立ち上がって部屋を出ようとする。


「んー、そっか。いつでも遊びに来ていいからさ。うちらも人たくさんいたほうが賑やかで楽しいし」

「は、はあ……」

 多少疲れを感じつつ、僕は重い足取りで敷島さんの部屋を後にし、隣の自宅へと帰った。


「あれ……僕、レポート用紙……まあいいや。どうせ提出期限守れなかったのだし」

 ……これから提出しに行って泣き落としするのも選択肢としてはありだけど、正直勝算はないし、外道過ぎるしやりたくはない。


「もう今日はこれから用事もないし……もっかいちゃんと寝るか」

 ばたんきゅーとベッドに倒れ込んだ僕は、そのまま意識を底に沈めよう……としたけど、


「ぎゃー! 初音ちゃん! 今ガサゴソ! ガサゴソって言ったっす!」

「あーはいはい、太郎さんご来店ですねー、バシッと!」

「ぎゃー! なんでそんな殺しかたするんすかー!」


 ……いや、普通にうるさいわ、あの人たち。

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